前回までのお話はこちら。

トップ画像は子宮頸がん予防啓発プロジェクト「愛は子宮を救う」よりhttps://www.love49nagano.com/activities/
ぶちあたった壁
セックスという言葉や、コンドームという言葉が過激だ、下ネタだ、といわれながらもPTAや教育委員会と戦い、講演を続けてきた山本さんでしたが、それとはまったく違うところでぶちあたった壁があったそうです。
ある時、こんな感想文を叩きつけられます。
「『山本さん、こんな親でも感謝せなかんかな』という内容でした。『僕の両親は殴る、蹴る、ろくにご飯も食べさせてもらえませんでした。お腹がすいて友達を恐喝して買ったパンを食べた時、警察に捕まってこの施設に入れられたんです。』」
講演をした施設というのは、家庭の環境上保護を要する子たちが入所する施設でした。
「私は(講演のなかでは、)親に感謝しろとはひとことも言っていない。でも私の育ちです。小さい頃から兄弟3人を女手1つで育ててくれた母親に対して、親に感謝せんと、親孝行せんとって。周りからガンガン言われてきた。塊みたいなものですよ。その気持ちを子どもたちに、いつのまにか植えつけてた…」
「私ははっと気がついた、施設の中学生は皆、親からの虐待などを受けていた子達だった。
その子たちがどんな思いで私の講演聞いただろうって思うと、早く謝りたいって思った。」
後日、改めてその施設での講演が決まりました。
「私は、あなた達にひとことも『親に感謝せえ』って言ってないよ」
「あなたたちを大切に、大切に育ててくれた親なら感謝すればええ」
「だけどあなたたちに嫌な思いをさせている親がいたならば、あなたたちがそんな親になるな、親を追い越せ、親は捨てろ!」
そう言ったそうです。
するとその後、
『山本さん、僕すぐわかった。今日は僕のためにきてくれたんですよね』『山本さんが親を捨てろって言ってくれたおかげで、こころが軽くなりました、でもね、こんな親でも僕の親です。父さんと母さんが大好きです。』
こんな感想文が返ってきたそうです。
「どんな子どもだって、父さん母さんが好きです。これを忘れないでください。」
そう伝える山本さんの表情は穏やかでした。
いじめ
いのちの大切さを伝える講演として、最近では中高生に向けていじめの話もするそうです。
「クラスでいじめはしたらいけない、という話し合いをすることもあるでしょう。
でも私に言わせれば、いじめはなくならない。
なんでなくならないか分かる?大人がやってるから。
職員室で先生たちがやってるかもわからないんだよ?」
「あなたたちのお父さんやお母さんが職場でやられてるかもわからない。
でもあなたたちにご飯食べさせなきゃいけないから、我慢してるんだよ。いじめは世の中にいっぱいあるし、やっちゃいけないのは分かる。だけど私が言いたいのは、『いじめをされたからといって、自分で命を断つことだけは一番やっちゃいけないんだよ』っていうこと。
一番いけないのは、あなたたちが助けを求めないこと。テレビでもよくやってるけど、あんな風にやってくれるなんて大間違い。地方のニュースなんて1分も出てないんだよ。
とにかく周りにしゃべることが必要だって、言っています。」
大人たちもやっているから。この言葉はとても印象的でした。看護職が離職する理由の大きな割合を占めるのも「人間関係」。いじめとは言わずとも、つまらないいざこざは、大人になってもあるのだと感じます。
お寺で
講演の場は学校などには限りません。
ある時、お寺でお話しする機会を得たそうです。
今を大切に生きろ、という話をよくするそうですが、山本さんの講演を聞いたお寺の住職が依頼をしてくれたのだとか。
「老い先短いジジババにも言えることだって、住職が言うんですよ笑」
何度か高齢者にまつわる性の悩みで、相談を受けてきた山本さんはお寺に集まる高齢者に話ができると決まってうきうきでした。
「老人施設で、ひとりのばあちゃんを取り合って殺傷事件があったり、朝起きたら寝たきりのばあちゃんの布団にじいちゃんが潜り込んでたなんて話もあるんです。そんなことはおおっぴらにされないだけでそんな相談をいっぱい受けてるんです。」
老人の性を語るに良いチャンスだと思って張り切ってお寺に向かった山本さん。
「お寺さんでセックスの話ができると思って意気込んで行った…
でもいざ、起きとるか寝とるかわからんようなジジババの前に座って、神聖な場所で、香の匂いがプンプンする薄暗い所で、いつのまにか緊張してこう言ってました。」
「腹八分目で、塩分制限して…」
「殆どのじいちゃんばあちゃん気持ちよう寝てました。
寝てる姿を見てはっと気がついた、ここの住職はこんな話のために私を呼んだわけじゃないって。
それを思ったら、ロウソクの火も線香の匂いも全部頭から吹っ飛んで最後に一言、「何よりもセックスが一番じゃ〜!!!」と言ったら全員起きました。」
医療や介護の場面でも、高齢者の性の大切さを。
20歳代の若い介護士さんからの相談でした。
「毎朝訪問に行く95歳の寝たきりのじいちゃんが、触ってくれ〜出してくれ〜やらせてくれ〜って。私毎朝気分が悪くて。」
その相談を側で聞いていたケアマネの方が、
「生きてる限り性はあるで。それがいやらしいと思うならあんたがヘルパーやめな。」
ときっぱり言ったそうです。
はっきりとした物言いにびっくりした山本さんでしたが、考えは似たものでした。
「人との関わりを持つような仕事に就く人で、セックスがいやらしいと思っている人が居るならば、大学辞めろ!と、福祉系の大学での講演で言ったことがあります。
いやらしいと思ってる人がおむつ変えるからいやらしいんですよ。
性が大切なことだということを知っている人が、そんな考えをもって大学で資格を取ったって意味がないと思うんです。」
かなり厳しい言葉です。
私個人としては、直感的に嫌だと思うことだってあると思います。
しかし、して欲しくてやってもらっている訳ではない患者さん・利用者さんは、そんな風に思われながらどんな気持ちでケアされるのだろうと考えさせられる言葉でした。
山本さんは、イベントに訪れたお父さんお母さんに対して、こんなメッセージも残しました。
「きちんとどこから産まれたのかを教えると、今度は性器を大事にする。
汚いところだと教えないこと。ちんちん触らないの!とか、汚いところとして教えないでください。
よく、トイレ行ったら手を洗いなさい!っていうけど、私に言わせれば手を洗ってからトイレ行って欲しい。それくらい。
なんでパンツ履いてるの?一番大事なところだからだよ。保護するためだよって、
見せるものでもないんだよ。誰かに触らせるところでもないんだよって。
そういうところから身体の大切さを、性器の大切さを教えることが大切だとおもってます。」
そのほかにも、
①下の子になればなるほど雑になる母子手帳はきちんと記入しよう
②おっぱいを吸っている姿を写真に収めておこう
③ぎゅっと抱きしめよう
この3つのアドバイスもありました。




看護師・助産師を目指す学生に向けて
お電話でいただいたメッセージです。
「とにかくね、私みたいな生き方があるんだよって言うことを伝えたい。
看護師さんだったら病院とか助産師さんだったら助産院とかそういう考えは捨てて欲しい。
せっかくたくさん勉強してきたのにその資格を捨てるのはもったいないよね。近頃、資格は持っているのに使わずにいるひとって多いでしょう?
私みたいに命の大切さを伝える立場になるっていう選択肢もある。ただそれだけ覚えておいてほしい。頑張ってね。」
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