ALSの勉強会〈呼吸器編〉を開催しました|のむゼミ活動レポート

このたび、NPO法人境を越えての副理事長である本間里美さんにALSを深く知ろう〜呼吸器編〜と称し、ALSの進行による呼吸筋への影響と、呼吸状態の悪化に対する医療機器、アセスメント・観察のポイントなどを盛り込んだ勉強会を開催していただきました!

本間里美さん
本間里美さん
”身体的重度障害者が地域で自分らしく暮らせるしくみ作り”を目指し設立したNPO法人境を越えての事務局兼副理事

介助者を増やす取り組みと、地域で暮らす当事者を深く知ってもらったり、それを支える介助者のスタンスを理解してもらうような活動を行っています。最近特に熱をいれているのは、”地域生活の視点で学ぶ身体的重度障害者の暮らし”を保健・福祉・医療を目指学生たちへのカリキュラム化プロジェクトです。
今回の福祉力養成講座は、せっかく介助の世界に飛び込んでくれた学生たちに実際の授業と現場が繋がる時間がもてれば良いなという想いで、企画しました。

目次

イベントの内容

勉強会で押さえるべき3つのポイントに分けてまとめてみました!

①呼吸状態の変化に応じたリハビリテーションの重要性

ALSは病気の進行により、運動神経が侵されていく病気です。よって、病気が進行するにつれて呼吸する上で欠かせない呼吸筋も動かなくなっていきます。しかし、例外を除いて一気に呼吸ができなくなるわけではありません。
(1)自分で呼吸ができる時期
(2)非侵襲的人工呼吸器(口や鼻、顔全体を覆う形で取り付ける)が必要な時期
(3)侵襲的人工呼吸器(喉に穴を開けて取り付ける)が必要な時期
主にこの3つの時期をたどりながらALS患者さんは呼吸機能の維持に対応していきます。患者さんの呼吸をすこしでも楽にするため、患者さんの呼吸状態がどの段階であるのかを判断し、適切なリハビリテーションを取り入れていくことが、医療者に求められます。

下に、それぞれの時期に聞かれる、聞き逃してはいけない訴えとリハビリテーションの例についてまとめました。

②肺に酸素が取り込まれる仕組み

人工呼吸の仕組みを理解する上で欠かせないのが、呼吸の仕組みへの理解です。まずは呼吸がどのように行われているのかを振り返ってみましょう。
空気を身体の中に取り込む上で重要になるのが肺です。肺胞は一見自分で膨らんでいるように見えますが、実は違います。肺の下にある横隔膜という膜が下に引き下がることによって、肺の外側の圧が下がり、自動的に肺の中の圧が高まることよって肺は空気を取り込むために膨らむことができるのです。では吸い込んだ空気からどのように酸素を取り込んでいるのでしょうか。ここで重要となるのが、肺胞と血管の接着です。肺胞が膨らんでいることによって肺胞を取り囲む血管との接触面積が大きくなり、酸素と二酸化炭素のやりとりが効率的にできるのです。

以上のことを活用すると、
ALSに進行により呼吸筋が衰える→肺を膨らますことができなくなる→肺胞が萎んでしまう→肺胞を取り囲む血管との接触面が小さくなる→酸素の取り込みが不足する
という流れが理解できるかと思います。では、ALS患者さんはどのようにして酸素を取り込めるようにしたらいいのでしょうか??そこで活躍するのが人工呼吸器です!!

③人工呼吸器って??

人工呼吸器は、肺胞を膨らますために空気を送る装置です。呼吸筋の代わりに、身体の外側から空気を入れて肺胞を膨らませています。

ここで注意が必要なのが、人工呼吸器は患者さんが空気を吸う時も吐く時も空気を入れ続けているということです。空気を吸うときは、肺胞を膨らますために空気を入れるというのは納得できると思いますが、どうして空気を吐く時にも空気送る必要があるのでしょうか。

それは、肺胞がぺちゃんこになることを防ぐためです。風船をイメージしてもらえるとわかりやすいかと思います。風船を膨らます時、完全に萎んだ状態の風船よりも、少し膨らんでいる風船の方が楽に膨らませることができますよね?それと同様に、患者さんが息を吐く時にも人工呼吸器から空気を送っておくことで、肺胞の膨らみを維持した状態を保ちやすくなり、空気が肺の中に入りやすくなるのです。

続いて、人工呼吸器のモード(どのようなタイミングで空気が送られるか)と換気方法(入れる空気の量をどうやって決めているのか)の違いと注意点について見ていきます。

人工呼吸器には3つのモードと2つの換気方法があります。

モード

(1)強制換気:全て人工呼吸器のタイミングで空気を入れる
(2)自発呼吸:患者さんの呼吸に合わせて空気を入れる
(3)強制換気と自発呼吸のミックス:患者さんの呼吸のタイミングに合わせつつ、呼吸回数が足りない場合に呼吸器が自動的に空気を入れてくれてくれる

換気方法

(1)圧規定:患者さんに必要な量が入る圧をかける
(2)量規定:設定した量を必ず肺に入れる

圧規定と量規定、どちらを利用する際にも注意点があります。

圧規定の場合:圧規定の場合には、設定した圧がかかっていれば必要な量が入っていると呼吸器が感知します。そのため、呼吸器のチューブがねじれるなどして圧力がかかった場合には、呼吸器のアラーム設定が不十分であると、肺に空気が入っていないことを知らせるアラームが鳴らずに、いつの間にか肺に十分な空気が送られなくなってしまい低換気に陥ってしまうリスクがあるのです。よって、患者さんの人工呼吸器のモニターに表示される一回換気量(患者さんの肺にどれだけの空気が入っているのか)を確認することが重要になります!

量規定の場合:量規定の場合には、どれだけ肺に圧が掛かろうと人工呼吸器は決められたようを入れようと働きます。そのため、肺繊維症など肺胞そのものが固くなっていくような進行性疾患の場合、圧の設定を調整しなければ、肺に穴が空いたり、肺が痛んだりするリスクがあるのです。よって、人工呼吸器のモニターにある気道内圧(気道にどれだけ圧がかかっていのか)が基準値を逸脱していないかを確認する必要があります。

以上のように、患者さんがどのようなモードでどのような換気方法を選択しているのかを知り、観察しておくことが呼吸器に関連したリスクを軽減する上で重要となります。

まとめ

  1. 呼吸機能を維持するには、患者さんの訴えを敏感に捉え、患者さんの病期を適切にアセスメントし、リハビリに反映することが重要!
  2. 人工呼吸器は患者さんの肺胞を膨らんだ状態に保ち、酸素化を助けるものであること。
  3. 患者さんが使用している呼吸器のモードと換気方法を知っておくことによって、注意するポイントが違うということ。

以上が勉強会のまとめになります!
本間さん、現場で活きる授業をありがとうございました!

参加者からの声

・本間さんの実体験に基づいた観察のポイントなども示していただき、とてもわかり易かったです。恩田さんのケースと一般的なケースを照らし合わせながら、具体的なアセンスメントのポイントを考えることができました。次訪問したときにココを見てみよう、と思えるところがたくさんありました!ありがとうございました!

・呼吸器の仕組みについてはあまり深く考えたことがなかったため、今回の勉強会で多くを学べてよかったです。
呼吸器は呼吸に合わせて吸う時は空気を送っており、吐く時は吸引しているイメージだったのですが、実は空気の量は変化させているけれど、吐いている時も送り続けていることに驚きました。
呼吸器は患者さんの命綱でもあるので、ヘルパーがちょっとした変化、何かが違うということに気がつくことが重要だと感じました。そういった面でも今回の勉強会は呼吸器の仕組みや気をつけるポイント等を学ばせていただいたので、気づきの目を養う基盤を作れたと思います。
また、送る空気の量や力は個人差があるため、非常時、緊急時のためにアンビューバックを用いてその人にあった快適な呼吸ができるよう練習しておきたいと思いました。

・私は、呼吸器は単に酸素を送る器具だとしか思っていませんでしたが、この勉強会に参加して、呼吸器のしくみや注意点などについて具体的に知ることができました。
まず、呼吸器は呼気と吸気で空気の送り方を変えていることを初めて知りました。吸気で空気を送るのはもちろんですが、呼気の時は「呼気終末陽圧」をかけることで、肺胞と血管の接触面積を増やし、ガス交換の効率を上げていることが分かりました。このように、身体のしくみと結び付けて医療器具のしくみを知ることが、正しく使用するために大切だと分かりました。

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