幸せな生き方を探求する|オランダの在宅看護の最前線「ビュートゾルフ」で働く看護師・綿貫葉子さんにインタビュー!

オランダのビュートゾルフという組織をご存じですか?ビュートゾルフは、オランダNo.1の在宅ケア組織です。今回は、インタビューイベントとして、ビュートゾルフで働くYokoさんに仕事もプライベートも大切にするオランダの働き方改革の成果と、ビュートゾルフの組織のあり方について伺いました。人生を幸せに生きるようとする、Yokoさんのパワフルな考え方に触れてみてください。

今回の記事はこんな人におすすめ!

    • 訪問看護に興味のある人
    • 海外で働くことに関心のある人
    • 青年海外協力隊や留学に興味のある人

インタビューにご協力いただいたのはこの方!

Yokoさん
綿貫葉子(わたぬき・ようこ)さん
日本で看護師、保健師として働いたのち、青年海外協力隊に合格し、保健師として足掛け3年間ガーナで活動。1990年からオランダ在住。特別養護老人ホームで4年間勤めたあと、2004年から訪問看護職に再就職。2013年からビュートゾルフという組織の一員となる。

文字起こし/宮本千陽  執筆・編集/野村奈々子

目次

看護職を目指したきっかけを教えてください

綿貫葉子さん(以下、Yoko):10歳頃から「遠いところ」に行って仕事がしたいと思っていました。日本なら離島、できれば海外に行きたいと思っていました。医療職なら資格を生かしてどの場所でも働けると考え、看護職を目指しました。

これまでのキャリアについて教えてください。

Yoko:看護師の資格をとったあと、保健師を育てるコースに進み、保健師の資格を得ました。まずは看護の基本的技術を身に付けるため、看護師として地域とつながりのある病院で働きました。働きながら海外に行く手段を調べていたところ、青年海外協力隊を見つけ、「これだ」と思い応募しました。

1985年に青年海外協力隊に合格し、保健師を募集していたガーナ共和国に派遣されました。2年間の任期を終えると、一旦帰国しました。日本でさらに看護技術を学んだあと同国に個人として再入国し、ある僻地の小さなクリニックで就業しました。足掛け3年間のガーナ滞在中にオランダ人の主人と出会いました。その後結婚し、1990年からオランダに住んでいます。

私がオランダに入国した時期は移住者に対する規制がさほど厳しくなく、また私が計4年間の学業を積んでいたこと、そしてガーナでの経験があることで、日本での看護師資格をオランダで認めてもらうことができました。住み始めた当時はオランダ語が話せませんでしたが、看護師として特別養護老人ホームに就職できました。オランダ語が話せない外国人を雇ってくれるなんて、「なんちゅう国やねん」と思いました。

*現在は日本の看護師免許を海外でも使用できるようにするためには、原則として現地の資格試験に合格する必要があります。優遇措置がある国でも、手続きが必要です。

Alt="ビュートゾルフ 綿貫葉子"

ガーナ時代(1986):地域医療で僻地の村落に出向き母子保健に携わる。子どもの成長を確認するために体重測定をしているところ

ーオランダ語が分からない状況でどのように働いていたのですか?

Yoko:入居者の多くは、認知症や精神疾患をもつ方々だったので、とにかくスキンシップから始めました。ただ、同僚とのコミュニケーションがとれないので、人間関係は難しく感じていました。指示が通じないので、同僚もイライラしてしまうんですね。

オランダの語学学校に通い、文法などをしっかり学び、徐々にオランダ語を習得していったことで、だんだんとコミュニケーションの壁が解消されていきました。その後、子どもが生まれたので休職しましたが、2004年から訪問看護の仕事を始めました。

ーなぜ訪問看護に再就職しようと思ったのですか

Yoko:私は人が好きなので、人と会うこと、人を理解することに興味がありますし、その人のために役立てることができれば嬉しいと思っています。また、施設の枠内で決められた仕事をするよりも、保健師的感覚で地域に出て自分で仕事をしたいと思ったので、訪問看護ステーションに就職しました。この組織はごく普通のピラミッド型の訪問看護ステーションでした。そこで数年働いたのち、友人から勧められたビュートゾルフに興味を持ちました。

ビュートゾルフについて教えてください

Yoko:ビュートゾルフは2006年にオランダで立ち上げられ、2007年から本格的に訪問看護を行う組織になりました。今ではオランダ全体にその名が広まっています。
ビュートゾルフは組織の体制が特徴的です。組織のリーダーがいて、その下で雇われるピラミッド型ではなく、誰が上だとか下だとかではなく、平等な関係で仕事ができます。どのように仕事をしたいか、どのようなチームを作りたいかを全部自分たちで決めることができるんです。

チームメンバーは最大12人です。これ以上増えるとコミュニケーションが難しくなるため、少人数で構成されています。私のチームでは、半数は50-60代で、一番若い人は29歳です。全体的に見て、日本と同様に訪問看護で働く看護師は年齢が上の人が多いですね。若い人にも訪問看護で働いて欲しいので、学生の受け入れに力を入れています。

Alt="ビュートゾルフ 綿貫葉子"

ビュートゾルフ(2016):認知症を持つクライエントさん(元職業訓練校校長)を地域連携で支えた一例。そもそも援助の必要はないと拒否していた方だったので、まず訪問看護を受け入れてもらい、その後ヘルパーさんとボランティアさんを導入。施設入居に至る前まで無事に在宅を続けることができ、本人も家族も満足してくれた

ービュートゾルフのどのような点に魅力を感じましたか

Yoko:私たちは看護師ですから、普通は看護師の仕事だけをしていればいいわけです。ところがビュートゾルフでは、組織の管理者でもなければ、ただの働き蜂でもない。みんなが、個人と組織全体の両方をみる視点をもって働く必要があります。組織の運営にも関わりながら、みんなでチームを作っていく働き方がすごく面白いと思い、ビュートゾルフで働きたいと思いました。面接の帰り際に呼び止められ、そのまま採用してもらい、2013年からビュートゾルフに務めるようになりました。

ー運営に関わりながら、患者さんひとりひとりに向き合って看護を提供することは大変そうです。どのように効率的に仕事をしているのでしょうか?

Yoko:個人で、自分が効率的に働けているかどうかを自己評価する時間を設けています。自己評価によって改善点がみつかることもあり、その動きが組織全体を健康に保っています。

ービュートゾルフのような組織形態のおかげで、看護師さんのできること・可能性に変化はありましたか?

Yoko:自分で何かやりたいという自主性が出てきたのではないかなと思います。看護師である誰もが、看護以外の能力も持っていると思うんです。自分たち自身が組織をよりよくしていきたいという意志に、看護以外の能力を重ねてアップデートしていける組織だからこそ、働いていて楽しい環境を自分たちで作っていくことができるようになったと思います。
自分自身が成長していると感じることが、人間として大事ですよね。

日本の組織もピラミッド型ではない組織の形態がだんだんみられるようになってきたと思います。ビュートゾルフのような働き方をそのまま日本に持ってくることは難しいですが、日本らしくアレンジすれば可能性はあると思います。例えば、管理者が管理者として働くのではなく、コーチ的な立ち位置で職員と関わるようになれば日本の組織形態も変わってくるのではないかと思います。

Alt="ビュートゾルフ"

ー一人ひとりが活躍していくためにどのような力が求められるでしょうか。

Yoko:一番は、自分から能動的に行動することだと思います。言われたことだけをやる姿勢では、このような形態の組織は難しいかもしれません。自分に何ができるか見極め、仕事を取りに行く必要があります。とは言え、私自身は今でも受動的な態度を取る傾向が強いので、なんとかチーム内での役割を見つけながら働いています。
人間的な興味を持つことも大切な要素だと思います。同じチームメンバーや患者さんと関わっていくなかで、いかにお互いに興味を持ち、良い部分を伸ばしていけるかが大切だと思います。

オランダの「働き方」に対する考えや文化を教えてください

Yoko:オランダはワークシェアリング制度*に則り、ほとんどの人がパートタイムで働いています。オランダでは仕事と私生活のバランスが大事という考え方が浸透しているので、パートタイムで働いても、正社員と同じように年金も支払ってもらえて、保険にも加入できる制度が整っています。私も、1週間に20時間の契約で働いています。私が所属するチームでも、フルタイムで働いている人はいません。

ーパートタイムでもしっかりと社会保障が整っているって、すごいですね!

*オランダ型のワークシェアリング
ワークシェアリングとは、ひとつの仕事を複数の労働者でシェアすることで雇用機会を増やし失業率の改善や労働時間の短縮を実現させる手法を指します。(中略)この仕組みを支えるポイントの1つめが「均等待遇」で、フルタイム労働者とパートタイム労働者の賃金や福利厚生、社会保障などに差を付けてはいけない法令が整備されている点。2つめは「フレキシキュリティ(フレキシビリティ(柔軟性)とセキュリティ(安定性)を合わせた造語)」で、一定期間就業した派遣労働者は正社員として雇用契約を結ぶ権利の保障や、従業員が雇用主に労働時間数の増減を要請できる法令の存在です。
ー働き方改革 事例集より引用(リンク

学生の実習について教えてください。

Yoko:実習は、看護学生に訪問看護へ興味を持ってもらう機会になるため、訪問看護の実習先を探している学校に「ビュートゾルフに実習に来ないか」と働きかけています。

半年間の実習に来る学生に対しては、組織がどのように運営されているのか、患者さんに対するケアの方法、看護計画立案、ビュートゾルフで使っているソフトウェアについてレクチャーしたり、ドクターとのミーティングなどに同行したりしてもらいます。学生を受け入れ、教育することはどのステーションでもできるわけではありませんが、将来的に在宅看護に興味をもってもらえたらと誇りをもって取り組んでいます。

最後に、学生へのメッセージをお願いします!

Yoko:とにかく「私たちは幸せになるために生まれてきた」ことを忘れないでください。難しいことはたくさんありますが、最終的に自分自身が幸せに思っていなければ、周りも幸せにすることなんてできません。反対に、自分がニコニコしていれば、それが周りに伝わっていくと思います。

そういう私も、悲しみや苦しみを何度も味わいました。でも今ではそれら全てがいい経験だったと思えますし、今生かされていることに心から感謝しています。皆さんも出来るだけ笑顔を絶やさず、全ての経験は自分の成長のためということを忘れないでいてくれたら、きっと楽しい仕事ができるだろうと思っています。

ーYokoさん、インタビューにご協力いただきありがとうございました!
たくさんの苦労も全て現在のお仕事や暮らしにつながっていること、看護は人と人としての関わりがベースになっていることを感じました。また、ビュートゾルフについて調べ、組織のあり方について考えるきっかけにもなりました。オランダも、経験年数を重ねてから在宅に足を踏み入れる傾向があることを知り、どのように若手にもチャレンジしてもらうのか、それぞれの取り組みから学べることがないか探してみたいと思います。

▼海外で働く看護師さんのインタビューはほかにも!
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