暮らしの中で、みんなで幸せをプロデュースする|訪問看護ステーション「コミケア」を率いる中澤ちひろさんにインタビュー!

Alt="コミュニティナース 中澤"

地域医療について考えたことはありますか。今回は、国際医療に携わった経験を生かして、島根県で訪問看護ステーション経営に携わる中澤ちひろさんにお話を伺いました。患者さんと家族が、住み慣れた地域で自ら幸せをつくっていく環境づくりに奮闘されています。「出来ないというのは簡単だけど、目の前の人が笑顔になるために諦めないで考え続ける」と熱い思いを語ってくれました。

今回の記事はこんな人におすすめ!

  • 地域医療に興味がある人
  • 地域のために看護師として働きたい方
  • 訪問看護などの事業立ち上げに興味がある人

聞き手:野村 奈々子 執筆:森山さん 編集:shiroさん

今回インタビューさせていただいたのはこの方!

中澤さん
中澤ちひろ(なかざわ・ちひろ)さん
神奈川県出身。大学卒業後、神奈川や広島で病棟看護や在宅医療に関わり、カンボジアとオーストラリアで国際医療を経験。2015年に地域活性を手掛けるNPO法人「おっちラボ」(島根県雲南市)から派生する形で、翌16年に訪問看護ステーション コミニティケア(同)を設立。地域で活躍する看護師を育てるCommunity Nurse Company株式会社*(同) 取締役でもある。

Community Nurse Company株式会社*
誰もが誰かのこころとからだの健康を応援する社会を目指し、コミュニティナースの普及・育成を行ったり、企業と実証実験を行ったりしています。

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目次

看護師になろうと思ったきっかけを教えてください

中澤:中学3年生の時、親戚のおばさんがリウマチで動けなくなったのがきっかけです。「こんなになっちゃってごめんね」と申し訳なさそうに泣いている姿に大きなショックを受け、疾病があっても自分の存在価値を感じられるような社会にしたいと思いました。
また、「自分はいらない存在だと思うことが、今日の病だ」というマザーテレサの言葉に高校時代に出会い、深く考えさせられました。大学生になると、体は健康でも社会に居場所がない人の存在に気づくように…。「看護の道に進んだら、本当に私がやりたいことをできるのだろうか」とキャリアに迷いはありました。

今のお仕事、活動について教えてください

中澤:訪問看護の経営のほか、地域に自ら出て行って人々の健康を後押しする「コミュニティナース」の育成を手掛けています。地域の活性化や課題解決をサポートする公益財団法人「うんなんコミュニティ財団*」の理事もしています。私たちがコミケアを立ち上げた当初、雲南市の方々に応援してもらったので、私もこれからチャレンジする人を応援したいと思っています。

うんなんコミュニティ財団*
2020年4月に642人の寄付300万円をもとに設立した市民コミュニティ財団。(同年9月に公益財団法人として認定)コミュニティ財団とは、地域住民が自分たちのまちを良くするために、自分たちの手で解決・改善したりするためのお金を集めてできた財団。財団は寄付を仲介したり、地域の諸課題に対して取り組んでいる当事者への資金提供を行ったりしています。(参考:全国コミュニティ財団 https://www.cf-japan.org/about-cf/

病院に勤めてから現在までのキャリアを教えてください

中澤:まずは大学卒業後、がん患者が多い病棟で勤務しました。仕事を通じ、「孤独な人」と「精神的な支えとなるつながりがある人」だと痛みの感じ方が全く異なることに気づきました。本人が持つつながりが、人の最期に大きく影響すると分かり、病気になる前の段階での、人と人との「つながりづくり」に貢献したいと思うようになりました。

そこで病院を辞め、終末期医療に力を入れているオーストラリアに行き、介護現場で働きました。オーストラリアは移民国家なので、職場にはいろいろな国の人がいました。日本とは全く異なる働き方や医療制度に触れるうちに、日本に帰って、日本独自の地域医療のあり方を深掘りしたいと思うようになりました。

帰国後は、広島で在宅医療や病棟看護に関わりつつ、健康格差の是正などを目指す特定非営利活動法人GLOW(神奈川県、https://www.facebook.com/npoGLOW/)という団体の研修員として、広島で在宅医療や病棟看護、カンボジアでの母子保健プロジェクトに一年半ほど関わりました。
カンボジアでは家族も患者と病院に寝泊まりするのが一般的で、点滴の取り換えなどを手伝うこともあります。彼らが「みんながいるからあったかい」と言っているのを聞き、患者が周囲の人とのつながりを保ちつつ療養できるようにする大切さを実感しました。そこでは病気と日常が切り離されておらず、「つながり」が維持されていました。私は神奈川県出身なのですが、「日本にも、そんな環境をつくれないか」と思って仲間探しをしていたら、偶然にも島根県にいきついたんです。

訪問看護ステーション コミケアの立ち上げのきっかけを教えてください

Alt=“まちの保健室”

月1回実施してるまちの保健室@郵便局

中澤:島根県を拠点にコミュニティナースの先駆者として活動している矢田明子さん(Community Nurse Company 株式会社代表)との出会いが転機になりました。私が広島県で働いているとき、島根出身の看護学生さんからキャリア相談を受けたことがありました。学生さんが矢田さんを紹介してくれたので、実際に会ってみたんです。ちょうど、医療・福祉分野以外の人と一緒に「現場」を作りたいと強く思っていた時期でした。

既に矢田さんは、地域に自ら出向いて、さまざまな分野の人たちと協力しながら健康づくりを後押ししていました。矢田さんから「何をやりたいの」と聞かれたので、「地域から現場を作りたい」と答えました。暮らしの動線に活動拠点を置くという考え方は2人とも一致していたんです。その後、「訪問看護でその拠点を作らないか」と誘ってもらい、二つ返事で「やります!」と引き受けました。

ーコミケアを立ち上げる前から、医療分野外の人を健康づくりに巻き込む構想がすでにあったんですね

中澤:病院は治療する場で、暮らしは患者さんの帰った先の地域にあります。医療や介護の資源は限られているため、その暮らしの中で医療職以外の人材を巻き込んだアプローチが必要なのではないかと、病院勤務時代から、ひしひしと感じていました。

広島で巡回診療をしていた時も、「私たちの説明が伝わっていない」と思うことが多くありました。これは、私たちにとっては普段当たり前になっていることが住民さんにとってはいかに非日常的なものであるかということを痛感しました。もっと地域の様々な人たちと一緒に考えて、地域側から医療のあり方を考えたいと思ったのです。

Alt="コミュニティナース 中澤ちひろ"

ーコミケアの理念を教えてください

ちひろ:コミケアの立ち上げ時、関係者同士で理念について話し合ったのですが、「その人らしく生きることができる社会を目指したいね」「療養やケアを必要とする人が、暮らしの中で幸せであることが、その人らしさを最大化させるんじゃないか」という思いで一致しました。
幸せは誰でも作ることができる健康の形だと思います。利用者さんの笑顔や幸せは、医療・介護職でなくても創り出せるんです。利用者さん自身が、自ら幸せを創る過程を『プロデュース』したいです。
それから、日本人は病気になると地域から孤立して苦しむ傾向がありますが、十分な対策はまだありません。在宅医療の実践を通じて、私たちも国の社会保障制度の在り方を考えていく必要があると感じています。

ーコミケア独自の取り組みを教えてください

中澤:健康講座への参加、人材の掘り起こしなどを通じて、住民を巻き込みながらの健康づくりを進めています。住民の孤立防止、見守り体制の強化にも取り組んでいければと考えています。
コミケアを立ち上げたのは、日常の繋がりや元気を地域の人と一緒に創る「コミュニティナース」の実践の場を作りたかったという理由もあります。どのようにそうした活動の収益を確保するかについても試行錯誤しています。

このほか、医療やケアを必要とする全ての年齢の人が、医療者以外とも幅広く交流できるようにする仕組みづくりを手掛けています。例えば、治療が困難な患者がカラオケで楽しみながらリハビリできるよう、「難病カラオケサロン」の企画をサポートしています。在宅医療の対象は、終末期の高齢者だけではないんです。疾病や障害を抱えつつ、地域で生活している若者や子どもたちのニーズにも対応する必要があるんです。

お仕事のやりがいを教えてください

中澤:患者とその家族、地域の方から「うれしい」「よかった」などと喜んでいただけることがあります。その喜びをスタッフを含めた全員で分かち合えたとき、強いやりがいを感じます。

また、日々の仕事では、医療やケアを必要としている人が、心の底から幸せになったのかどうかを、今までの常識にとらわれずに考えることを大切にしています。課題は多いですが、諦めずに追求したいです。解決が難しい課題であっても、地域の人を巻き込みながら、少しずつ改善していけたらいいと思います。

Alt=“中澤ちひろ”

地域サロンの様子

ーコミケアは立ち上げ後、スタッフさんをどんどん増やしていきました。何に惹かれて集まってくれたのだと思いますか。

中澤:「患者の幸せを、医療スタッフだけではなく、地域を巻き込んでつくりあげる」という私たちの理念に共感し、加わってくれる人が多いです。自分らしい働き方、看護を実現できる場として、コミケアを選ぶ人もいます。

ー今は経営者の立場でお仕事をされていますが、以前のように現場にでたいと思うことはありますか

中澤:コミケアの経営者となり、現場で医療に携わるのとはまた違ったやりがいが生まれました。スタッフが増えるにつれて、より多くの患者や住民に喜んでもらえるようになりました。私は学生時代にバレーボールをしていたためか、さまざまな人との仲間づくりや連携を通じ、喜びの輪を広げる活動に魅力を感じています。

Community Nurse Company株式会社では、どのような事業を担当していますか

中澤:コミュニティナースの育成のほか、「地域おせっかい会議」という事業に携わっています。立場を越えて集まった個人が、小さな声でつぶやかれる困りごとやニーズに対して、こんなことできないかな?私これならできるよ!とみんなでアイディアを出し合います。会議の場で共有することで、従来の民間・行政サービスでは解決し得なかったことも、いろいろな地域にあるポテンシャルを引き出して地域の健康づくりを推進する取り組みです。

最後に、現役の看護学生へのメッセージをお願いします

中澤:学生のときは多くの時間があるので、やろうと思えば何でもできる時期だと思っています。今の時代は情報を拾い易いですが、自分の問いを持って自分が主体的に何か行動してみないと、自分の学びには落とし込めないと思います。そのため、疑問に思ったことや、やってみたいと思ったことを自分ごととして実践することが大切だと思います。動くことで次の問いへの扉も見え、自分がどういう卒業後のキャリアを築いていきたいんだろうと一つずつステップを踏めると思うので、たくさん動き、たくさん自分ごととして実践するというチャレンジをしてほしいと思います。

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