日本最西端の離島・与那国島では「家で死ねないから、高齢になったら島を離れる」現実がありました

Alt="与那国島 在宅医療"

8月上旬、日本最西端の与那国島を視察してきました。与那国島独自の医療事情や、介護事情についてリサーチしてきました。なぜ高齢化率が全国平均よりも低いのか?安心して島の人が暮らせる環境を整えるには?離島の医療に関心のある方はぜひご覧ください。

今回の記事はこんな人におすすめ!

  • 離島の医療に関心のある方
  • 僻地への訪問看護ステーションの開業に関心のある方
  • 八重山諸島で余生を暮らしたい方

この記事を書いた人

みほ
糸数三穂(いとかず・みほ)

沖縄県与那国島出身。沖縄県立看護大学卒業後、都内の総合病院にて就職。看護師・保健師業務6年間従事し、株式会社REGIEに入社。看たまノートの事業部長として看たまノートを牽引。

ななこ
野村奈々子(のむら・ななこ)

岐阜大学の4年生。最近、南の島にご縁があります。6月には鹿児島県・徳之島の緩和ケアチームの活躍を学びに行きました。いつか徳之島で働いてみたいです。

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目次

与那国島に視察に行った経緯

糸数:中学校卒業後は島を離れて暮らすこと、大人になっても島を離れて暮らすことが当たり前でした。最近、地元の同級生や先輩、後輩が島に戻りつつある様子をみてて、島で過ごした日々を思い出すことが増えました。島での生活の不便さは感じるものの、戻りたくなる感覚が私にもありました。また、私自身が大切にしている人々や環境があることを感じるとともに、島での生活の不便さの一つ、医療資源が足りない課題について向き合いたいと思い視察に行きました。

与那国島ってどんな島?

Alt="与那国島 在宅医療"日本最西端の島。沖縄本島から南西へ約509km、石垣島から約127km、東京から約1900kmに位置し、隣接する台湾とは約111kmしか離れていません。租納(そない)、久部良(くぶら)、比川(ひがわ)の3つの集落に約1700人が暮らしています(令和4年7月末日現在)。亜熱帯気候で年間を通して暖かく、島特有の多様な生物が生息しています。

与那国島の医療福祉の現状

与那国島の医療福祉資源

島内には、診療所1件、デイサービス1件、訪問介護事業所1件、特別養護老人ホーム1件があります。地域医療振興協会から派遣される医師が1名、診療所・事業施設合わせて看護師が6名ほど、ケアマネージャーが4名ほどが活躍中。

与那国町診療所

外観よりも広い診療所。健康診断ができるような一般的な検査機器は全て揃っています。放射線技師、臨床検査技師はいないので、血液検査の機械操作などは看護師が行い、レントゲンやCTなどは医師が操作する必要があります。自衛隊の診療所に放射線技師がいるため、手伝ってもらうことがあるそうです。
また、薬剤師もいないため調剤は看護師が行っています。一時期、院外処方も検討されたことがあるそうですが、島には薬局がないため、石垣島での処方となってしまい患者さんの負担が大きく、現在も院内処方を行っているそうです。

ななこ
CTを操作したことがない医師も多いのではないでしょうか。衝撃です!

みほ
CTが導入されてからは、癌の早期発見に繋がっていると聞きました。医療機器が1つ増えるだけでも、住民の命は救われているのだと、医療資源の重要性を感じます

Alt="与那国島 社会福祉協議会"

与那国町社会福祉協議会

保健センターの管理・運営のほか、ミニデイサービスの運営や訪問介護、子育てサロン、配食サービスなどさまざまな事業を行っています。デイサービスは、ミニデイサービスは、健康増進や身体機能の低下予防を目的に、比較的元気な高齢者を対象に短時間のデイサービスを実施しています。週に2回、お昼の3時間ほどで、昼食や送迎があります。配食サービスは、宅配する際に利用者とのコミュニケーションをはかり、安否確認もかねています。

ケアセンターがんどぅ(デイサービス)

定員10名で島唯一のデイサービスです。利用者は年齢層や認知機能も幅広いため、最初は通うことに抵抗する住民もいたとのことですが、看護師や介護士の手厚いケア・関わり方により、評判になっています。高齢者が安心して、島で過ごすことができる1つになっており、がんどぅの存在は大きいそうです。

みほ
看護師や介護士がいきいきと働いている様子があり、サービスを受ける利用者も安心して通うことが出来るのだろうと思います。

与那国島の在宅医療

高齢化率は21.50%(国勢調査の2020年のデータより。全国平均は28.00%)。高齢化率が低いのは、高齢になる前に沖縄本島に移住したり、島を離れた子どもに呼び寄せられて移住したりする高齢者が多いためだそうです。

島内に入所施設は特別養護老人ホームしかないため、島で最期まで生活する=自宅で生活するか、特別養護老人ホームへの入所しか選択肢がありません。大きな病気がないうちはデイサービスや訪問介護、宅食サービスなどで支えられていますが、病気を抱えながらも最期まで島で暮らしたい人にとっては、本人やその家族を安心させられる在宅医療の体制がないことが課題となっています。とくに一人暮らしの高齢者には選択肢がなく、移住につながりやすいのです。

Alt="与那国島 診療所"

与那国島は、Dr.コトーのドラマや映画のロケ地。撮影用に建てられた診療所のセットは、島の観光スポットです。

ななこ
在宅医療が無いと、島から高齢者が離れていく。高齢者が離れてしまうと、帰る理由・場所がない子・孫世代はそのまま帰らないのかも。家族みんなで島で暮らしていた時代では、在宅医療がなくても家で死ぬことが当たり前だったかもしれないけど、家族の支えがほぼない状態で死に向かうには在宅医療がない場所では厳しいのかなあ・・・

普段の外来は混み合っているため、医師が訪問診療に出かけることは難しいとのことでした。産婦人科や耳鼻科の医師が代診で来ている間、与那国町診療所の医師はフリーになりますが、看護師の手が空いていないため訪問診療に出かけることはありません。確かに医師の訪問に看護師や在宅医療PA*が同行して訪問するほうが安心・情報共有がしやすいかもしれませんが、まずは医師一人で訪問診療に行くチャレンジが必要かもしれません。

みほ
島の医療者はみんな、在宅医療は必要だと感じているが、実際はできない現状にある。もどかしさを感じます。

在宅医療PA(Physician Assistant)*…患者さん・ご家族とのコミュニケーションを通じて、その人らしい生き方を一緒に考え、安心して生活できる環境を一緒に作る医療人。医師の業務をアシストしたり、意思決定支援を行ったり、環境調整を行います。(参考:https://teamblue.jp/career/jobs/pa/ 2022.08.19accessed)

ヘリ搬送の現状と課題

与那国島はドクターヘリを保有する沖縄本島から南西へ約509km離れているため、燃料が足りず飛んでくることができません。ドクターヘリが飛ばない代わりに、海上保安庁のヘリが石垣島まで急患の搬送を担っています。主に、島で診れない場合…具体的には、すぐに手術が必要だと判断された場合や、その他重症例、緊急入院は不要でも一人暮らしのため点滴などをつけて一晩やり過ごせない場合なども搬送されます。

課題1 ヘリを飛ばすにはお金がかかる

海上保安庁は、海上における治安の確保、災害対策、海洋調査、海難救助などを任務とする国土交通省の外局です。つまり、国の機関であり、国費でヘリを飛ばしていることになります。元診療所事務員さんのお話によると、町の負担ではありませんが1回の搬送でかなりのお金がかかるそうで、(本当は島内でみれたかもしれない)搬送件数が減ることは患者さんの負担を軽減するとともに、海上保安庁の懐事情を守ることにつながります。

課題2 搬送するかどうかは、医師の考えに左右されやすい

肺炎などで入院が必要と判断された方が、一旦入院するベッドがないために島外へ搬送されるケースは、一晩待てば飛行機を使うことができます。今すぐ搬送するか、一晩持ち堪えてもらって翌朝の飛行機で島外の病院を受診するか、島内で診るかは、そのときどきの医師の判断に委ねられてきました。
数年単位(不定期)で派遣される医師が入れ替わるなか、医師の判断によって年間のヘリでの搬送件数が異なる現状があります。この意思決定には、医師の技量のほか、在宅医療体制の有無も大きいのではないでしょうか。「本当は島内でみれたかもしれない」搬送ケースを減らし、患者さんの負担を軽減したいところです。

与那国島を視察してみての気づき・学び

野村:初めて与那国島に降り立ち、穏やかな自然と島の町並みをみて、移住する人がいるのもわかるなあと思いました。コロナ禍ということもあり、実際にお話しできたのは数名でしたが、狭いコミュニティの良し悪しとうまく付き合っている様子、診療所一つで島の人の命を守っている様子、島外に出ていく子どもと島で帰りを待つ親御さんの気持ち…いろいろな方のお話しを聞いて、島への愛を感じました。

医療職や介護職が島内で数えられる人数しかいないこともあり、消防などを住民の方が担っていると聞きました。きっと、見守りなどに関してもご近所さんの力が発揮されている部分は多いと思います。これからの医療体制をパワーアップさせるには、すでにあるインフォーマルな資源を生かすことや、島民のみなさんの理解と協力が必要不可欠なのだろうと思いました。

Alt="与那国島"

美味しい八重山そばが食べられる「わかなそば」。与那国島に行ったらぜひ足を運んでみてほしい。

糸数:限られた医療資源・医療人材で、更には医療ではない領域が関わり、与那国島の医療を支えている実態を知りました。海上保安庁のヘリコプターでの救急搬送は、幼い頃から当たり前であったため違和感はなかったのですが、看護職として与那国島の医療をみた時、あまりにも医療資源が足りていないのだと感じました。ショックを受ける現状ではありますが、与那国島の医療者・介護者は住民の命と生活を守るために本気で向き合っていること、今ある資源で協力し合っている状況をみた時、こんなにも熱意を持って医療・介護を提供している方々がいることに嬉しくも思いました。
人口は減りつつあるものの、島で生活している住民はまだまだいること、私の大切な家族や仲間が住んでいることは事実であるため、与那国島の住民にとって必要な医療を届けたいという思いが強くなりました。

ーーー看たまノートでは、看護学生にとってキャリアを考えるヒントとなる情報発信をしています。今回の記事は、視察での学びを書き留めておくことが主な目的ですが、発信することで同じような状況におかれている離島や僻地の医療に携わろうとする方のヒントになれば幸いです。

また、今年6月に取材した徳之島のように、看たまメンバーが興味関心の赴くままに全国各地を飛び回りながら、各地の医療事情やさまざまな取り組みも取材しています。「この地域がアツい!」「この人をぜひ取材してみて!」などの情報提供は看たまノートお問合せフォームよりお待ちしています。

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