今回は、ご自身の海外での子育て経験をもとに、助産師さんが女性とその家族のヘルス・メンタルケアを行う相談サービス「じょさんし ONLINE」を立ち上げた杉浦加菜子さんにお話しを伺いました。立ち上げに至るまでの想いや、サービスづくりで大事にしていること、利用者さんの実際の声とは。ぜひご一読ください✨
今回の記事はこんな人におすすめ
- 助産師を目指す人
- 母性看護や小児看護に興味のある人
- 起業に関心のある人
- 何かやりたいけど、何をやったらいいか分からない人
\今回インタビューにご協力いただいたのはこの方/
株式会社じょさんしGLOBAL Inc.代表。海外での子育て経験をもとに、「世界のどこにいても誰もが身体と心を大切にできる社会の実現」をミッションに掲げ、産前産後及び女性と家族のヘルス・メンタルケアを行う相談サービス「じょさんし ONLINE」を運営。近年は企業内の女性及び子育て世帯への相談窓口やリテラシ―向上の研修を行う女性と家族の「ソトヅケ保健室」も展開。
https://josanshi-cafe.com/
看護職を目指したきっかけを教えてください
杉浦加菜子さん(以下、杉浦):もともとは薬剤師になりたかったのですが、センター試験の受験科目を考えた結果、看護の道に進みました。看護師の勉強は最初はあまり面白く感じませんでしたが、子どもが好きだったこともあり、小児看護と母性看護に興味を持ちました。母性看護の授業で出産のビデオを見せてもらったとき、赤ちゃんが自分で頭の骨を重ねて、自分で回転しながら出てくる力強さに感動して、助産師になろうと思いました。
学部卒業後のキャリアを教えてください
杉浦:東京にある、葛飾赤十字産院(現:東京かつしか赤十字母子医療センター)に就職しました。当時実習担当だった先生の元の職場で、8人くらい学生を連れて病院見学に行かせてもらったことがきっかけです。年間3000人の赤ちゃんが生まれる病院で、産科に特化しているので、分娩室・手術室・病棟・NICU・外来を経験できました。3年間働いたあと、結婚を機にクリニックに転職しました。
ー各病院のカラーを調べて就職先を選べると良いでしょうか。
杉浦:助産師として何をしたいかを考えて、「この病院は何に力を入れていそうか」を見れるといいと思います。例えば、クリニックだとできる前提で採用されますが、大きな病院であれば教育カリキュラムもしっかりしていると思います。
妊娠しづらい体質であることが分かって、クリニックを退職しました。退職後、子どもを出産したのですが、その子が0歳6ヶ月くらいのときに夫の海外転勤が決まりました。0歳9ヶ月の娘を連れてオランダに行くことになったんです。
ー異国の地での子育てはいかがでしたか。
杉浦:日本での子育ても、初めてのことばかりで大変だと思います。大変だけど、近くに保健所も助産院もあるし、日本語で調べたら出てくるじゃないですか。
海外の場合は、医療制度もわからないし、まずはどの単語で何を調べたらいいのかがわからない。日本だったら「洗濯機の使い方が分からない…」なんてこともないはずですが、普段の生活でも不安やハードルを感じていました。切れ目のない支援を、と言われている時代でも、私のようにこぼれ落ちてしまう人がいる。一般的な産前産後の支援にのらない人を救うには、新しいサービスが必要だと思ってじょさんし ONLINEを立ち上げました。
じょさんし ONLINEとは
杉浦:オンラインで、妊婦さんや子育て世代の女性とその家族の相談に乗るサービスです。日本だけではなく、世界中どこにいても相談できる体制を作っています。アメリカ、タイ、中国、フランス、ドイツなど、世界中にいる日本人助産師13名とチームを組んでいます。実際に、サービスの利用される方の約4割が海外にいる方です。
多言語に対応するので、国際結婚した方が現地語でパートナーと一緒に説明を聞きたい、という場合にも活用していただけます。コロナ禍ということもあり、やはり海外でも夫婦揃って説明を受けたり、教室に参加したりすることが難しいようです。女性は妊娠したら約10ヶ月かけて身体の変化や心の変化を感じながらだんだんと母親になっていきますが、男性はそうではありません。パートナーと一緒に説明を受けることで、2人揃って子育てをスタートできる点がよかった、という声をいただいています。
また、妊娠・出産・子育ては、その人だけが頑張っても解決しないことがあります。子育てしやすい環境にしていくため、自分らしい選択をできるようにするため、企業さんへの研修を行ったり、福利厚生としてサービスをご活用いただいたりしています。
ー研修ではどのような気づきがありましたか。
杉浦:企業が子育て世帯を支援するにあたって、まずは何から始めたらいいのか分からない方が多いようです。しかし、事例を交えて説明していくと、「そういえば自分の友人も…」と思い当たることがあったり、自分の場合はどのように行動したらいいのかを考えるきっかけになったりしています。リテラシーを向上させる研修を重ねて、ライフステージの変化があっても自分らしい選択を支えられる企業を増やしていきたいですね。
実際にご自身で海外での子育てを経験されて、国による文化的なギャップはありましたか。
ー英語はどのように学ばれましたか?
杉浦:実は、帰国子女なんです。小学校3年生から6年生まで、父の転勤でアメリカに住んでいたときに、英語の基礎を身につけました。最初は何も分からず、友達と話すことに必死でした。大変なこともありましたが、海外にいたことで最近よく言われる「ダイバーシティ・インクルージョン」が自然と自分のなかに根付いたと思います。
髪の色も瞳の色もみんな違うし、「養子縁組だから、ぼくら7人兄弟は血は繋がっていないんだ」という家族もいました。文化的背景がさまざまであることが私の日常だったので、日本でのあたりまえは本当にあたりまえなのかを問いかけるようになったと思います。これは子育てにも言えることで、それぞれの国の「あたりまえ」の違いを知り、そのうえで自分はどうしていきたいかを一緒に考えていくことが大事だと思っています。
ー海外経験が杉浦さんの事業のルーツにもなっているんですね。きっと子育ては自分の思うようにいかないことも多いと思いますが、それ自体も柔軟に受け入れながら、どうしていくかを考えて続けることが大切なのだろうなと思います。
相談にあたって大切にしていることを教えてください
杉浦:自分の価値観を押し付けないことを大切にしています。私たちのサービスの利用者のなかには、病院の医師や助産師から言われたこと、乳児健診で出会った保健師から言われたことに傷ついている人がいます。医療者による何気ない一言で、一生悩むお母さんたちがいることを知って、医療者として不甲斐ない気持ちになりました。
もちろん、相談にくるお母さんの考えと、私たち支援者の考えが一致するとは限りません。人と人とのコミュニケーションなので、私の言葉がお母さんをもやもやさせてしまうこともあるかもしれませんが、少なくともじょさんし ONLINEでは、悩み続けるお母さんを生み出さないように関わろうと思っています。そのためにも、「なぜそこに悩むのだろう」と思うことがあったとしても、一度個人的な考えを置いておいて、受け入れ、いろいろな視点で話をしようね、とチームで共有しています。
ー最後の砦のような、サードプレイスのような場所なんですね。
お仕事のやりがいを教えてください
杉浦:藁にもすがる思いでじょさんしONLINEに出会った方や、海外で私と同じ境遇にある方から「じょさんし ONLINEを作ってくれてありがとうございます」とコメントをもらったときは泣いちゃいました。
リピートしてくださる方もいるんですよね。妊娠期間中〜出産直後〜育児の期間、それぞれのタイミングで悩むたび、利用してくださる方もいらっしゃいます。オンラインではありますが、その方がお母さんとして自立していくようすを見守れることにもやりがいを感じます。
経営者として大切にしていることはありますか
ー杉浦さんはどのような場所で経営について学ばれてきたのですか
杉浦:起業した当時は知識ゼロでした。夫が銀行員なので、お金周りについては聞きましたが、産後うつで自死する人を減らしたい想いや、私自身が海外での子育てが大変だった経験から、「なんとかしたい!」と思う想いだけで走ってきました。経営に関する知識は後付けです。現在入居しているPRE-STATION Ai(プレステーションエーアイ)や、昨年度参加した東海若手起業塾などでメンタリングしてもらいながら、そのときに必要な知識を補って、実践しながら学んでいます。
ー必要なことを必要なタイミングで学んでいっているんですね
今後チャレンジしていきたいことを教えてください
杉浦:日本に住む外国籍の方への支援も広げていきたいです。その人の文化的背景や宗教など、対話を通じて学ばせていただきたいです。
「海外」というキーワードが同じなだけで、海外にいる日本人の方と、日本にいる海外の方は根本的に異なります。日本人は身体の大きさも、育ってきた文化的背景も日本人ですが、海外の方へのアプローチは全く異なります。私がオランダでオランダの文化を押し付けられて困ったのと同様に、その方の文化を尊重する形で支援できたらいいなと思っています。
助産師を目指す学生へのメッセージをお願いします!
杉浦:実習がめちゃくちゃ大変だと思います。出産っていつ何が起こるか分かりませんよね。でも、忙しく走り回る助産師さんと違って、あるひとりの人にずっと寄り添えるのは学生です。学生だからこそできることがあると思うので、うまく先生の力を借りながら学んでいってもらえたらと思います。大変なこともあると思いますが、看たまのような場所で、吐き出せたり、先輩と繋がれたりすると頑張れるのではないかなと思います!
ー「看護に進むはずじゃなかった」という学生にもメッセージをお願いします。
杉浦:自分の道を見つけている人を見ると、羨ましく思ったり、自分と比較して落ち込んだり、焦ると思うんですよね。自分がまさにそうで、何かやりたいけど、何がしたいか分からない時期がありました。でも、そのときやれることをやり続けていけば、今に結びつくことが振り返ってみると見つかることもあります。
また、やりたいことや進むべき道が見つかっている人の方が少ないと思います。見つかるタイミングが早いか、遅いかという違いなので、いま笑顔で、元気に過ごせることを第一に、目の前のことに向き合ってみてほしいと思います。
ー杉浦さん、ありがとうございました!
杉浦さんの本当に価値あるものを作っていきたいという思いや、支援にあたってのマインドが、サービスの随所に滲み出ているのだと思いましたし、真摯に向き合うことが、口コミに繋がっているのだとも思います。また、じょさんしONLINEが、助産師さんの新しい働き方にもつながっているのではないでしょうか。ぜひ今後の展開を追いかけさせてください!
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