今回の記事は、「医療法人社団オレンジ」にインターン生として飛び込んだ、当時大学2年生のばたこさんのインターンの足跡をご紹介。ご本人のnoteに掲載したものを、特別に看たまノートに出張掲載していただきました。
序盤から学びでいっぱいのばたこさん。さまざまな価値観に触れることができたようです。
2023年度から4年生の看護学生。看護学のほか、環境にも関心がある。趣味は河原や公園、港でごろごろしたり空をひたすら眺めること。
ばたこさんのInstagramはこちら→https://www.instagram.com/pandabatakopanda
1日目 つながるクリニック
オレンジさんが運営する、福井市にある「つながるクリニック」にて初日研修をしました。
現在看護学専攻3年生ですが、コロナの関係で実習もオンラインになり、病棟に足を踏み入れたことがありません。
ですので、いわゆる「診察室」に入り、「外来診察」を見学したのは初めてでした。
入院生活を経て自宅療養をする末期患者さんや、少し身体の異変を感じて来られる方、毎日飲む薬を処方してもらうために来られる方…本当に様々な方がいらっしゃいました。
治療だけでなく、予防的な観点からも携わることができる場なのだということを実感しました。
また印象的だったのは、子どもたちに向けた優しい工夫に溢れていたことです。
- 診察が終わるとメダルが一枚もらえ、待合室に置いてあるガチャガチャを1回回すことができる
- 待合室に塗り絵が置いてあり、提出すると上記メダルが一枚もらえる(大賞も決まる!)
- 注射が終わった後に貼る絆創膏にアニメキャラなどのイラストが描かれている
などなど…
なんとなく診療所、病院に対する子どもの頃の恐怖が、大人になっても先入観として残っているような気がします。
これらの工夫は、その先入観を解消し、成長して行くにつれて生じる、身体のことだけでない不安や悩みを、気軽に相談できる場として印象づける目的もあったりするのかなと思いました。
Aさんとの出会い
待合室で利用者さんとお話しする中で、同じく利用者さんのAさんと出会いました。
Aさんは、脳梗塞の既往があり、血圧なんと180mmg以上…!(家庭血圧の正常値は最高血圧135mmg未満なので相当高いです。) 脳梗塞の後遺症である半身麻痺のため、歩くのも杖をついてゆっくり。食事もおかゆしか食べられない。いつ脳梗塞が再発するかわからない。
そんななかで、Aさんは生きている。なんでそんなに頑張れるんだろう。
失礼ながら、私は単純に疑問に思いました。
そこで、診察を終え、薬を取りに行くAさんに付き添うよう促していただきました。薬を受け取り、近くの理髪店に散髪に行くとAさん。そこまでの間、お話ししながら一緒に歩きました。
色々とお話しするうちに、Aさんのご家族の話に。
「ひ孫がね、よく遊びに来るんよ。帰ってきてすぐ、私の所にとことこ~って駆けつけてくれて…これが可愛いのなんの!!」
嬉しそうに話すAさんをみて、あ、そうか、と腑に落ちました。
脳梗塞の再発の恐れがあり、以前の生活とは全く異なる生活の中で、生きがいとなる人がいる。その子の成長を見届けるために生きる。それが楽しみ。
人は人に生かされている。大好きな人のために生きることの楽しさ。
生きる力になる。
私も誰かの生きがいになれているだろうか。私の生きがいは何だろうか。
誰かの生きがいになる将来って素敵だなぁ。
生きがいはもちろん人じゃなくても良いと思います。でもやっぱり人と人のつながりって、生きる意味になるくらい大事なものなんだなと学びました。そして、誰かの生きがいになる生き方ができたら幸せだなと思いました。
そしてクリニックに戻った後も、外来を見学したり、コロナ疑いの発熱外来の様子を拝見したり、先生が忙しそうな様子を拝見し、地域医療の実際を学ぶことができました。
1日を通して様々な方とお話しし、それぞれ来られる目的や理由は違いながらも「つながるクリニック」という場所があったから出会うことができた方々なのだなと、感慨深い思いになり、この日の研修は終了しました。
勝見さんとお話し
その後、今回のインターンの調整をしてくださった勝見さんとお話ししました。
勝見さんは元々病棟の看護師として働かれていましたが、子育てに注力したいこともあり、一度は看護師としての仕事を離れたものの、その後、在宅医療にも興味があったことから、オレンジさんで復職されたそうです。
そのきっかけがなければオレンジさんには勤めず、病院で今頃看護師長になっていたかもしれない。
でも、オレンジでの仕事はやりがいがあって、何でも楽しんで取り組むことができるという強みを生かして楽しく働いていると仰っていました。
あのときこれがこうだったら…と考えることは私もよくあります。
そうなっていたらまた違う人生があったのだろうか。
でも実際生きている今は、そのきっかけがあったから成り立っているのであり、ご縁が複雑に絡み合って「今」がつくられているのだなと改めて感じました。
勝見さんの「何でも楽しむ」という強みは、このご縁でつながった偶然的かつ必然的な人生を生きていくにあたって、とても大事なことだと思い、心がけていきたいと思いました。
2日目 勝山オレンジクリニック
朝、皆でラジオ体操をしてスタート。
池口先生の診療の様子を見学させていただきました。
気づいたことは、身体のことだけでなくその人の生活や人生全体を診ているということです。
久しぶりに来られた患者さんには、「最近会えなくてさみしかったですよ。」という声かけ。
診療が終わったときには「また会いに来てください。お話ししましょう。」という声かけ。
他にも、あれ?ここ診療所だよね?と疑いたくなるような会話が診察室では繰り広げられていました。
診療より雑談の方が多かったのではないかというくらいでした。
クリニックの「にこにこだより」の方でも、池口先生はこう仰っています。
皆さん、外来混んでるのに、まだ終わらんのか?と思ったことありませんか?…すいません、長くしています。中には病気の話もあるけれども日常生活の話だったり、人生についてとか、そんな話もしています。趣味の話とかも。『病院』というくくりで『診察』で『患者さん』の話を聴くには必要のないことかもしれません。でも僕らオレンジは、『病院』ではなく僕ら自身が『あなた』のことを知りたいし、それ自体をとても大切なことだと思っています。
勝山オレンジクリニック にこにこだより 2月号
まさに目の前の『あなた』にフォーカスした会話が実際に行われていたのをみて、診療というよりはご近所さん同士の会話とか友達同士の会話に近いものを感じました。
私自身大学で医療について学んだことや今までの受診経験を踏まえて「診療」として作り上げていた像をひっくり返されたような感じでした。
サービスご説明のためのお宅訪問
また在宅医療のご説明のための訪問に同行させていただきました。
内容は、入院からご自宅での療養に切り替えるにあたっての説明をご家族にする、というものでした。
今回はご本人不在のまま話が進んでいましたが、だからこその難しさがあると仰っていました。
コロナ禍でご家族もまともにご本人とお話ができておらず、ご本人の思いが過去のあるときに言っていたという「点」でしかわからない状態でした。
看取り目的で帰ってくるというのはどんな気持ちなのか。
ご本人にしかわからない気持ちを推測しながらご説明やその後の訪問診療を行う必要があるのだと、帰りの車の中で教えてくださいました。
待合室
クリニックに帰ってきて、待合室の様子を見ました。
低い椅子と机があるのは一般的でしたが、その机の上には折り紙と、桜の花の折り方が書かれた紙がありました。
診察を待っている間に作られた桜を集めて、壁に大きな桜の木を作ろうというプロジェクトが行われようとしていました。
しかもその壁は入り口の真正面にあり、できあがれば大きな壁一面に折り紙で作られた桜の木が迎えてくれるのです。
スタッフだけでなく患者さんや利用者さんも一緒になって診療所を華やかにするアイデアは、皆で居心地の良い雰囲気を作っていくことにつながり、とても素敵だなと感じました。
また折り紙の得意な患者さんが折り紙教室を開いたり、家で作った作品を持ってきてくれることもあるらしく、良い意味で診療所らしからぬ不思議な空間だなと思いました。
訪問診療に同行
池口先生と、同じく勝山オレンジクリニックで働かれている皆川さんと午後の訪問診療をご一緒させていただきました。
利用者さんのご自宅に実際に上がらせていただくことで、その人の今までの人生や特技、強みがわかるところが訪問診療の良いところだと皆川さんは仰っていました。
利用者さんで、会いに行くと必ずマシンガントークが始まり、診療が終わってもタイミングをみて割り込まないとずっとお話をされる方がいらっしゃいました。
その方の診療のあと、池口先生は、「自分たちがその方のお話を聴くことで、その方の問題は本当に解決されているのだろうか。ただの自己満足ではないか。そうさせないためにはどうすれば良いのだろうか」ということに気づき、考えておられました。
ただ診療をするだけではなく、その人の生活や人生もひっくるめて診るオレンジさんだからこそ、日々学び、考え、迷いながら地域医療を実践されているのだなと感じました。
ゆいサロン
皆川さんは「ゆいサロン」を、午後訪問診療で診療所が空いたときに開催しておられます。
外来で来られる方はもちろん、その方々のお友達や、近くのバス停でバスを待っていた方が来られ、ボール遊びや手芸など、様々な催しをやっているそうです。
時には得意な方が先生となって行われることもあるそうです。
医療とは全く関係なく行われる、こういった催しに参加することで、参加者同士で顔見知りになったり、他愛のないお話をしたり。
お写真も見せていただきましたが、皆さん笑顔で、とても楽しそうでした。
こういった日常生活の延長線上で人とのつながりが増えていくことはとても素敵なことだと思いました。
またそのつながりを増やすためにサロンを開いている皆川さんはすごいなと思いました。
勝山オレンジクリニックでの研修を通して、一人一人の生活に寄り沿うクリニックの実際を学びました。
まだコロナの関係で実習もオンラインでしか行われたことがなく、病棟に入ったことがないので、対面で病院の診療の様子など見る機会には、今回見た診療や会話を比較してみたいです。
番外編:マンスールさんと東尋坊へ!
私が寝泊まりさせていただいたシェアハウスに住んでおられるマンスールさん。
お休みの日に東尋坊に連れて行ってくださったり、インド料理を振る舞ってくださったり、ご近所さんとお食事する機会を作ってくださったり…。
マンスールさんが居てくださったおかげで、研修以外の時間もとても充実したものとなりました。
一緒に東尋坊に行った際、冨居さんおすすめのカフェでお茶しながら、日本とインドの考え方の違いやマンスールさんの価値観を学びました。
日本は自立と拘束の両極端です。
自分で生きろ、自立しろとよく言います。実際、私が通っていた高校も校訓が「自主自立」でした。自分のことは自分でなんとかする。子どもが目の前で転んでも、自分で立ち上がるように促す。早く自立して、いい職について、生きていけと言う。
そうでなかったら過保護になって、医者になるよう小さい頃から遊びよりも勉強を優先したり、遊びを制限したり。
「あなたのためを思って」がキラーワードとなって、親の価値観の押しつけで子どもの自由が奪われる。
(最近ではおそらく変わってきているとは思いますが…)
一方インドでは、困ったときには周囲のひとが何も言わなくても必ず助けてくれるそうです。何を決めるにしても友達や家族と一緒に考える。
(結婚一つとっても、自分の家族や友達が相手の家を訪れ、その人がどんな人かをみて、結婚にふさわしいかどうかを話し合うそうです。)
その人の自由も尊重しながら、お互いに助け合う。
真の互助組織はインドにあったのか!?
東尋坊に行く際も、天気が怪しかったためマンスールさんのバイクで行くことは断念し、マンスールさんのお友達に送っていただきました。
その時も、わざわざありがとうと言わない、とマンスールさんは仰いました。
なぜなら、それが当たり前だから。自分が困っていたら、友達が助けてくれる。友達が困っているときは自分が助ける。それが当たり前。
日本と大きく違うなと思いました。
またマンスールさんはご家族のこともお話ししてくださいました。インドの実家周辺で、留学生が来たので、マンスールさんのお母さんがその留学生たちにご飯をあげたり、困っているときにはすぐに助けたりしたそうです。
それが回り回って今、マンスールさん自身が福井でご近所さんや日本語の先生に助けてもらえている。
そう仰っていました。
そのお話を聴いて私は感動し、思わず泣いてしまいました。
誰かのためを思ってやったことは巡り巡って自分や自分の大切な人に還ってくる。
心の底から「あなたのため」を考えてできることをする。
それが本当に相手のことを考えて、喜ばせようと思ってやったことならば相手はきっと喜んでくれる。
自分が助けられる。自分の大切な人が幸せになる。
そんな考え方を持ちながら、人だけでなく動物・植物・自然環境全般のために自分ができる事を考え、学び、行動してきたいと感じました。
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