青年海外協力隊の経験を経て、ほっちのロッヂ(長野県軽井沢町)で働く訪問が好きな看護師・菊池郁希(きくちゆき)さんにお話を伺いました。ゆきさんのお仕事への姿勢や、「何にでもなれる」パッションと思考を感じとっていただけたら嬉しいです。
ほっちのロッヂ・菊池郁希さん
ー現在お勤めの「ほっちのロッヂ」について、少し説明をお願いします。
「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」と言います。
ほっちのロッヂでは、大きな台所、文庫、アトリエなどがある、町の人の居場所のことです。
この居場所を拠点に、診療所や在宅医療を展開しています。
午前中が外来のクリニックで、午後はお家に診察をしに行く訪問診療があります。病児保育も行っており、具合が悪くなったお子さんを診察して、お預かりしています。通所介護(デイサービス)も始まっています。
それから、私が働く訪問看護ステーションがあります。
ほっちのロッヂは2020年4月からスタートしたところなのですが、この訪問看護ステーションだけは半年前倒しで9月からスタートしていました。
普段のお仕事について教えてください
現在は看護師として、お家に訪問して健康のサポートをするような訪問看護の活動や、診療所の外来に来る患者さんのケア、訪問診療で医師に同行するなど、幅広く活動しています。
ーそもそも、看護職を目指したきっかけはなんですか?
中学校の時に見た写真がきっかけでした。
開発途上国に行ったことがあるという方が話しに来てくださって、その時に見た写真が衝撃的だったんです。お腹がポコッと出てるけど、手足がガリガリのアフリカの子どもの写真でした。
「生まれる場所は選べないのにちょっと不公平だな」と思ったことから、健康にも興味を持ち、自分の手で何か役に立てたらいいなぁと思ったことがきっかけでした。
ー看護大学時代、スタディーツアーにも行ってらっしゃったそうですね?
そうです、初めて途上国とよばれる国に行った経験でした。
キリスト教系のNGOがやってたツアーに参加して、南インドの結構田舎の病院に行きました。そこの医師たちがいるところに10日間くらい泊まって、診察や活動を見せてもらいました。
都市部と田舎での貧富の差の違いに衝撃を受けたのを今でもよく覚えています。
看護大学を卒業してからのキャリアについて教えてください
私は長野県出身で、大学まで長野にいました。
でも海外の活動などのお話があったり、東京に出てみたいという気持ちがあったりで就職は東京の大きな病院に決めました。
最初は3年で辞めようかと思っていたのですが、尊敬できる先輩たちの出会いや、自分の看護を深めるような研修を受けられたこともあり、結局5年間働きました。
その後、途上国といわれる国に行けるボランティアの制度を使って
青年海外協力隊として南アメリカにあるパラグアイに派遣されました。
そこで2年間現地でホームステイしながら、診療所の看護師ボランティアとして活動していました。
帰国してから、海外と地域と両方働ける北海道の病院に勤めていたのですが、ある訪問看護師さんに出会いました。この方と働きたいと思うようになって、1年間訪問看護ステーションで働かせてもらいました。
しかし、北海道にいるとやはり地元が遠いなと感じることもあります。
自然が多いところで働くなら、地元に帰ろうか…と思っていたところ、ちょうどほっちのロッヂができるということを知り、働けることになりました。
ー海外の活動を通じて地域に着目するようになったのは、どのような体験からでしょうか。
もともと大学の時から地域に興味はありましたが、パラグアイでは田舎にある国の公設の診療所に派遣されていました。日本のクリニックのようなお仕事もしますが、予防接種の管理もしていましたし、子どもたちの家に予防接種をしに行く活動もしていました。
あとは健康教育のために学校に行ったり、一般の方にお話ししたり多岐にわたる事業を任されている機関でした。
私は看護師として派遣されていましたが、国と国の取り決めの中で注射や点滴をすることはできなかったので、活動は健康教育が中心でした。
パラグアイは少し貧しいイメージがあるかもしれないですが、食べ物、特に穀物(イモ、トウモロコシ、小麦)や肉が豊富で栄養に偏りがでることもあります。意外と高血圧や糖尿病の人も多いんです。
そこで、同僚に尋ねたりホームステイ先家族のツテを借りたりして、対象となる家庭を選び、家庭菜園を提案していきました。
「土地はあるんだし、私が種を用意するから育てるのはやってみて!」
という感じで、お家を回る活動をしていました。
この経験が地域に入る一つのきっかけになっていると思います。
ー限られた活動期間で、現地の方の生活に入り込んで活動されているのがすごいですね…!
こちらは協力隊で同じ時期に派遣されていた仲間が作ってくれたという動画。現地の風が感じられます!
現在のお仕事のやりがいについて教えてください
エキスパートがいる訳ではないので、みんなで新しいものを作っていこうという若さとか楽しさとか、そんなものが渦巻いているような場所だなぁと思っています。
新しくいろんなものを作っていく分、その楽しさと同時に難しさも感じるところがやりがいに繋がっていると思っています。
小さいチームですが、それぞれ思いを持ったメンバーの集まりなので、
その気持ちを聞き、本当にお互いに気持ちを表現しながら形ができていったり、できたと思ったら変化していったり…という流れを感じながら働けるっていうのはすごく楽しいなと思っています。
ーちなみに、求人はどのように進んでいたのでしょうか?
まず、ほっちのロッヂは共同代表がいます。藤岡聡子さんと、もともと福井県で在宅医療をやっていた紅谷浩之というドクターとの2人で始めた施設がほっちのロッヂです。
ですから、福井県でのノウハウが10年くらいあって、そこで働いてたメンバーが今いる中の1/3強くらいいます。職種でいうと、医師、看護師、社会福祉士、保育士、介護福祉士、文化環境設計士などが働いています。
看護師については、9月から前倒しで訪問看護ステーションが始まることになったので、夏にほっちのロッヂで働きたい人を募集するアナウンスがありました。zoomなどのツールを使っていわゆる「就職説明会」が開かれました。
情報をキャッチした人たちが集まって、そこから実際に働くところにつながっていったという形ですね。
ーイケてる情報を掴むことができた、アンテナを張っている方々というだけで、素敵な方が集まっている予感がしますね…!
ー具体的にどのような時にやりがいを感じますか?
またまだ本当にスタート地点で、経験豊富な人がいるわけではないんですよね。
そんな中で訪問看護の活動をしていくっていう時に、
それぞれが「こういうふうに関わりたい」とか、「こういう考えがあってやってできた!」というところを共有しあっています。
実際に利用者さん(暮らしの支えに入る人って私たち呼んでるんですけど、)のお家に行って、ケアをする、またはケアをしたことで反応いただくことをして戻ってきたときに、一回自分たちで解きほぐしてみて、話します。
「これができたね」とか、「逆にこれもっと工夫できるね」という風にチームが作られていく瞬間が1番いいなと思います。
お仕事で大切にされていることを教えてください
本当にいろいろな考えや想いがある人の集まりなので、自分の考えと価値観を押しつけるということはしないということを大事にしています。
まず、何を考えているかを聞くというところから。
あとは、実際に暮らしの支えに入る方々のお家に行った時とかは特に決めるのはご本人であるってことーーー主語は誰か?を忘れないようにしています。
ものごとを一つの視点からだではなく、様々な視点から考えるということを大事にしています。
今後チャレンジしていきたいことを教えてください
目の前の活動をできるようにしていきつつ、まちへ出て行きたいなと思ってます。
あとは私が外国人として海外に暮らした経験から、今この日本にいる外国籍の方達ともつながれたらいいなぁと思っています。
また、パラグアイで2年間一緒に暮らした家族もとても大きい存在なので、パラグアイともつながって何かできたらいいなという想いもあります。
ー青年海外協力隊としての経験を、国内で活かしていけたらいいなということでしょうか。
そうですね、海外に行く道もあると思っていますが、まずは国内でと思っています。
最後に、現役の看護学生にアドバイスをお願いします!
学生の頃のお金はないけど、とにかくフットワーク軽く自分たちで動けるんだっていうところをぜひ生かして、動いてみるといいなと思っています。
興味があることをいくつも広げていくのも一つですし、興味がある事を深くすることも一つだと思います。
興味を持って取り組むことが気が付いたら繋がってたなと思うので、頭で考えるのも大事ですが、どんどん動いて繋がっていくと、また先が広がっていくんじゃないかなと思います。
ー興味関心は海外に絞っていましたか?
もちろんずっと海外で働く看護師もかっこいいなと思っていましたが、「なんかそれだけじゃないかな」という思いもあり絞っていませんでした。
結構選択肢は幅広く残してきたと思います。
今でも、別に何でも違うこともできるかなって思っています!一つにこだわる必要もないので、とても自由に生きられることを楽しめたらいいなと思います。
ー看護師として働かなければいけないこともないですし、看護師として働く手段も様々ですものね〜!自由に楽しんで働きたいと思います^^
ゆきさん、インタビューにご協力いただきありがとうございました!
取材協力:川邊祐詩さん
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