神栖コミュニティケア実習を体験してきました!

筑波大学の医学生たちは、合計78週の臨床実習を行います。総合診療/地域医療実習(4週間)は、必修の実習であり、そのうち1週間を茨城県神栖市で過ごします。

神栖市では、地元の旅館に泊まり込み、地域診断をはじめ、外来・病棟、在宅医療(訪問診療・訪問看護・訪問リハビリ)、調剤薬局、ソーシャルワーカー、産業保健、診療所、多職種連携、地域住民の体験・異業種帯同実習、小中学校での健康教育などの学びが獲得できるよう、神栖市の強みを発揮した臨床実習カリキュラムが組まれています。

今回は、全国ぶっコミプロジェクトのご縁から、この筑波大学の1週間の神栖市でのプログラムのうち、一部を抜粋した2泊3日ver.を体験させていただきました!実習の様子と、実習を通しての学びをレポートとしてご紹介します。

目次

1日目 旅館にチェックイン、ヘルスプロモーションについてレクチャー

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旅館の女将さんが超元気で面食らいました。ご本人曰く「女版・高田純次」とのことで、ギャグセンスが光るパワフルな女将さんです。0から神栖市実習を創るべく泊まり歩いて、この旅館を探し当てた先生曰く「この女将さんのもとに泊まれば、どんな内気な学生でも会話せずには帰ってこれまい」と。全くその通りだと思いました。

関わっていくなかで分かってきたことは、女将さんとお客さんの日々のコミュニケーションや、旅館の至る所に見られる気遣いの全ては、お客さんにポジティブな力を届けたいという女将さんの想いから生まれるものでした。人生を楽しく生きるコツをたくさん教えていただきました。
仕事のために単身で長期滞在する方に対しては、普段からメンタルの変化や滞在者どうしの人間関係についても目を配っているそうです。

もっとやれるぞ、ヘルスプロモーション

*ヘルスプロモーション
世界保健機関(WHO)により、1986年にオタワ憲章が提唱され、2005年にはバンコク憲章で再提唱された21世紀の健康戦略のこと。2005年には、「健康の社会的決定要因=SDH(Social Determinants of Health)」をより意識した声明が発表され、ヘルスプロモーション=「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されました。

*健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health、以下SDH)
健康格差を生み出す政治的、社会的、経済的要因のこと。健康を語るには、細胞レベルの話だけではなく、所得や社会のサポート、国際関係や職場などの環境的な要因も欠かせません。これらの要因によって、ライフスタイルや生活環境には差が生じ、その結果として人々の健康状態の差が生じるとされています。

  • Alt="SDH 健康の社会的決定要因"
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ヘルスプロモーションの概念は授業で扱いましたが、「健康の社会的決定要因」について詳しく習わないまま、「テストに出るらしい」と定義をまる覚えしてしまっていました。
自分の健康に及ぼす因子を自分でコントロールしたり、改善しようと努力できることがヘルスプロモーションと定義されているということは、単に健康増進のためのセミナーを行ったり、健康教室を開催したりする予防教育活動だけがヘルスプロモーションではないということです。

具体的に上げるなら、たとえば、慢性的な片頭痛持ちの人が、痛みがあるたびに鎮痛薬を服用するなど医療の力を借りて対処していたとします。ヘルスプロモーションのアプローチで考えると、医療的なケアだけで対処するのではなく、本来、頭痛になりやすい自分(自身)の傾向に気づいてセルフケア能力を獲得するといった、生活者のヘルスリテラシーが向上できるようなアプローチも必要でしょう。また、国民全体のレベルで健康を考えれば、長時間労働や不適切な雇用形態に起因する健康問題に対しては、政策レベルで職場環境にアプローチする戦略も含まれるのだろうと考えました。
今回の気づきが、「あれは違う、これは違う」ではなくて、「もっとここまで目指していこう!」という、自分のなかの解釈がポジティブな方向に拡大したので、大切にしたい気づきです。

2日目 神栖市周辺の看護学校へのぶっコミを行いつつ、地域診断をすべく街中を散策

事前に目を通した神栖市のPVや統計資料がとても役に立ちました。
ピーマンの出荷量が日本一であることや、鹿島臨海工業地域の成り立ち、工業地帯がもたらす経済的な循環、古くから親しまれてきた神社の存在など、PVには神栖市の歴史と特徴が詰まっています。
また、統計の資料からは、街の経済力の高さや生産年齢人口の多さが、地図からは工業地帯で定期的に必要になる大規模な点検作業に備え、旅館やホテルなどの宿泊施設がたくさんあることや、小中学校の多さを知ることができました。街中を散策することでその様子を確かめることができました。

実際の医学生の実習では、実習中の医療従事者や異業種帯同実習で出会った人々、タクシーの運転手、練り歩いている際に出会ったまちの人にインタビュー(アンケート調査)もしているそうです。

実は普段から近しいことをやっていた!

飲食店の多さや、各飲食店の営業時間、メニューの特徴から、三交代制で24時間稼働する工場の職員さんたちの生活スタイルに合わせているのだという発見がありました。他にも、歩行者が少ない様子や、子どもが集まる公園の位置、車線の数や渋滞情報からも、周辺で生活する人の交通手段が見えてきます。

このように、データとまち歩き(今回は車移動が多かった)で見えてくることがたくさんありました。また、ぶっコミプロジェクトメンバーでのドライブ中の話題や、全国を周りながらまちを眺めていた視点を振り返り、「地域診断」の目線であったことに気付かされました。

3日目 午前:青果店「丸や」

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青果店「丸や」さんでは、スタッフの方々についてまわったり、お店にお買い物にいらっしゃるお客さんとコミュニケーションを取りました。近くにスーパーマーケットがある環境でも、わざわざ大通りを渡って、丸やさんまで野菜や果物だけを買いに来てくださる方がいらっしゃることや、スーパーマーケットと青果店の違い、それぞれの良さについて教えていただきました。

実際の医学生の実習では、農家やお店で仕事を手伝いながら、地元の人と交流し、その土地と人を知り、神栖市の健康ニーズへの理解を深めているそうです。

それって、コミュニティナースかも

なかでも印象的だったお話は、お客さんとやりとりするなかで果物を選んでもらうことで、「しっかり味を感じる」と言っていただける、というエピソードでした。実際に果物が新鮮だからかもしれませんが、顔の見える関係性だからこそ、果物が美味しく感じられたり、自分好みの食に出会えることは素敵なことだと感じました。

また、ぶっコミプロジェクトとしてコミュニティナース的な視点でいくと、お客さんと顔見知りの関係だからこそ、いつも買うもの、いつもの交通手段、いつも交わす言葉、いつもの歩き方、いつもの小銭の計算の仕方が分かります。日常的な関わりのなかで、「いつもと違うな」と気づくこと、「今日も元気だ!」と確かめることができるのだろうなと感じました。

3日目 午後:神栖法律事務所での異業種帯同実習

実際の医学生の実習では、裁判や法律相談の見学をはじめ、地域の有識者の会合や小中学校での講演、裁判の傍聴などを通じて、弁護士の方の活躍を追いかけるそうです。今回は法律相談の場に同席させていただきました。

当たり前だけど、困っている人しか来ない

どの相談でも印象的だったことは、溢れる情報と感情を整理し、クライエントにとって何が一番いい方法かを提示し、選んでもらっていたことです。
「お医者さんと似ているかも。手術や薬など、それぞれの治療法のメリットやデメリットを伝えて理解してもらい、患者さんに選んでもらいます」と帯同させてくださった神栖法律事務所の安重先生。

確かに「先生が言ったから」と責任を押し付けられるようなことを避ける意味でも、選んでもらった方が良さそうです。しかし、それ以上に「自ら解決したいと訪れた人を手助けする」意味でも、アドバイスを受けながら自分で選び、再スタートをきるよう促すことは、とても重要な関わりなのではないかと感じました。

夜のディスカッションタイムのようす

また、法律事務所こそ、「お金に困っている」「頼る先がない」「仕事・家庭環境でこんな問題がある」という方に遭遇しやすい場所だと感じました。ひょっとすると、行政に相談に行きにくい人が頼ってくれるかもしれない。ひょっとすると、警察沙汰にしたくないけど、誰に相談したらいいか分からず困っている人が来るのかもしれない。そしてその人たちの困りごとの解決方法が、弁護士さんのお仕事の範疇ではない場合、頼れる地域のつながりやおせっかいな人が、その人のヒーローになるかもしれません。とにもかくにも、法律事務所はさまざまな背景をもった困った人が集まる、不思議な空間でした。

逆に、私たち実習生のように、現在困っていない人が法律事務所に出入りすることで生まれる何かがあるのかもしれない、とも思いました。

まとめ

数字とネットで分かることと、実際に地域の人と関わることで見えてくることをつき合わせ、比較したり新しい発見をしたりすることがとても楽しいことだと感じました。数字が如実に現れていることもあれば、資料からは分からなかったこともあるというギャップがそう感じさせたのかも…(この地域のお葬式が華やかだという情報も、青果店でお葬式用のでっかい果物バスケットを包んでいたところから分かりました)。

虫の目(細部までみる)、鳥の目(俯瞰してみる)、魚の目(時間軸をみる)で、対象地域をまるごとみてアセスメントできるよう、これからも理論とまち歩き(実践)を行き来したいと思います。
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今回、全国ぶっコミプロジェクトメンバーを快く迎え入れてくださった阪本直人先生、各施設の皆様、本当にありがとうございました!今後、この神栖市での実習は、全国の医療学生にも受けてもらえるように整備する予定だそうです。

(そもそも全医療職が経験していいはずのものだ〜という前提で)看護の子にとっては、

  • 保健師(行政保健師でも、病院保健師でも、産業保健師でもなんでも)に興味のある方
  • 地域/在宅の現場で活躍していきたいと考えている方
  • 地域包括ケアシステムの中核に関わるような施設、医療機関で働きたい方

におすすめの実習だと思いました。

ぜひ多くの学生さんに神栖市で地域診断やヘルスプロモーション、SDHなどについて理解を深める経験をしてもらい、それぞれのまちに持って帰れたらと思いました。

普段、筑波大学の医学生(5年生)さんたちが体験している実習の様子は、ホームページからご覧になれます。

参考

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