新卒で訪問看護の道に進んだ野村奈々子(のむら ななこ)さんが、就職してからの学びや葛藤をまとめてくださいました。最初の1〜2ヶ月をどのように過ごしたのか?どんな気づきや学びがあったのか?ぜひ新卒で訪問看護師になろうとする人の参考になれば幸いです。
今回の記事はこんな人におすすめ
- 新卒で訪問看護の道に進もうか迷っている人
- 新卒を受け入れようとする訪問看護事業所
- 新卒で訪問看護師になった人
自己紹介
現在、宮城県登米市にある医療法人やまとの運営するやまと訪問看護ステーションにお世話になっています、野村奈々子です。
学部時代の経験から、医師の少ない地域でも安心して暮らせる地域を増やしたいと思い、そのために必要な知識や経験を積める場所を探して就活し、現在のステーションに出会いました。
やまと訪問看護ステーションは看護師7名、理学療法士3名(2023年4月現在)のステーションで、同法人のやまと在宅診療所をはじめとする近隣の医療福祉施設と連携しながら介護度・医療依存度もさまざまな患者さんの生活を支えています。
https://tome.yamatoclinic.org/others/homecare_station/
同行訪問、ときどき研修の毎日
やまと訪問看護ステーションでは新卒看護師の受け入れは初めてなので、模索しながら随時軌道修正しています。教育体制は、新人に対して一人教育担当の先輩がつき、周囲のスタッフや管理者がそれを支援するかたちです。随時看護協会や近隣の大学の研修を受け、OJTと座学、演習を重ねていくスタイルです。
4・5月は、ひたすら同行訪問を重ねていきました。同行訪問後は日報に気づきや学びを記載し、その日同行させていただいた先輩と振り返りの時間をもっています。土日には看護協会主催の新卒・新人*訪問看護師向けの研修があるので、必要だと思うものを教育担当の先輩と相談し申し込んでいきました。
4月は「訪問看護を楽しいと思える」を目標に、患者さんの顔と名前を一致させるところから始まりました。訪問回数を重ねるごとに、情報収集の幅を広げたり、疾患に対する一般的な観察項目をあげてバイタルサインを測定したり、同行訪問の質をあげられるように少しずつステップアップしていきました。
5月は「できる!わかる!を増やす」月でした。ケアへの参加を増やしていき、そのケアが実施可能か判断するための観察項目を洗い出したり、「そもそもこの人に、なぜこのケアが必要なのか?」をじっくり考える機会を持ったりして、フィードバックをもらう毎日でした。
新卒・新人*・・・看護学校卒業後すぐ入職した人を新卒、病棟などで看護師としての経験をもち訪問看護師になった人を新人と表記しています。
思考過程を明示する難しさ
学生時代から習うように、看護過程を展開する際には
情報収集→アセスメント→計画の立案・実施→ふりかえり
という経過を辿っていると思います。しかし、ベテランの看護師さんは、この思考の過程を頭のなかだけで行っていることが多く、思考がブラックボックス化されていると感じました。
新卒訪問看護師には、このブラックボックスの中身が全く想像できません。実際に、一つひとつのステップを順序立てて説明してほしいとリクエストしてみると、先輩方にとっては、実際に息を吸うようにアセスメントしていたこと・観察できていた・気づけていたことを言葉にすることは難しいようです。
難しいからこそ、先輩任せにするのではなく、新人からも「私からはこう見えていたが、合っているか」という確認することも重要だとも感じました。
『在宅ケアのための判断力トレーニング――訪問看護師の思考が見える』(医学書院)の著者である清水先生は、訪問看護師の「判断」が導かれる思考サイクルについて以下のようにまとめています。
新人・新卒訪問看護師向けの清水先生の講義を受け、自身の判断力を磨くことはもちろん、同行訪問を通じて先輩訪問看護師さんの思考のクセに気がつけるようにしていきたいと思いました。
教育体制は受動的では意味がない
新卒で訪問看護にいくかどうか迷っている学生さんから、「病院と違って、教育体制が整っているかどうかが気になる」という声をよく耳にします。
確かに教育体制は気になるところかもしれませんが、この教育体制は何を指しているのか、明確な答えをもっている人は少ないのではないでしょうか。個人的には教育体制・プログラムに完璧なんてものはなく、アップデートされ続けてほしいものです。
また、教育を受ける、受身な姿勢は高校生で終わりたいとも思います。訪問看護ステーションに入職して2ヶ月間が経過し、「本人の主体性があって初めて教育体制やプログラムが生かされる」と感じました。あくまでも学ぶ人が主役であり、支援者は私たち新卒訪問看護師が育とうとする力の方向づけをする・勇気づける存在なのではないかと思いました。
就活で「教育体制が気になる」と思う学生さんには、
- 「育ててほしい」という意識があるとしたら、思考の転換が必要かもしれない。「私はどのような環境で育ちたいのか」という思考に切り替えよう。
- 完璧な体制・プログラムなんてない。都度やり方を見直している事業所や、対話しながら、ともに悩みながら成長し合おうとする事業所を探そう。
ということを伝えたいです。「そんな不安定さは心地悪い!」と思うのであれば、もしかしたら病院のほうが気質にあっているかもしれません。
バイタルサインとは
多くのステーションの新卒訪問看護師にとって、「まずは安定した患者さんのところに1人で訪問できるようになろう」というのが当面の目標になります。
先日、「安定した患者さんって、ほとんど変化がないの?」と急性期病棟で働く友達に聞かれました。訪問して一体何をするのか?難しいことなのか?と不思議に思ったのだと思います。
振り返ってみると、状態が安定しているからといって、変化がないわけではないと思いました。例えば、毎週排便ケアで関わっている方。食べるものや水分摂取量が変わらなくても、本人の体調や外気温の変化で、便の量や性状が変わることもあります。浣腸をルーティンで実施したいところを、「今回、この人にとって浣腸が必要なのか?」を都度評価して実施するケアを判断します。
また、ケア中に童謡をYoutubeで流すと、いつも言葉を発さないおばあちゃんが童謡を口ずさんだり、いつも目が合わないおじいちゃんが、今日は焦点があったり。一見変化がないように見えても、日々何かが変化しています。
きっと、家族も日々の小さな変化を感じ取っているのではないかなと思いました。ずっと見ている家族だから気づくことや、少し時間を空けて訪問するから看護師が気づくこともある。みんなで協力しながら、身体から発されるわずかなサインを受け取り、ケアに生かしてお返しする。このサインを受け取るアンテナを磨いていきたいと思います。
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