「自分の心に嘘をつかずに」ほっちのロッヂで働く西川理奈さんへのインタビュー

Alt=“ほっちのロッヂ 看たまノート”

自分の人生を大切にしながら歩んできた先で出会った「ほっちのロッヂ」に勤務する西川理奈(にしかわ・りな)さんにお話を伺いました。
西川さんのお仕事への姿勢、自分の人生との向き合い方や考え方などを感じとっていただけたら嬉しいです。

目次

西川さんの現在のお仕事について、教えてください。

西川さん(以下、西川):軽井沢にある、通所介護や訪問介護などを行う「ほっちのロッヂ」で働いています。

Alt=“ほっちのロッヂ 看護師”

まちを知る活動として、ちょうど1年ほど前には、ほっちのロッヂの近くのfarmのお手伝いをしていました。

西川さんは、なぜ看護職を目指されたのですか?

西川:看護師を目指したのは、工業高校3年生の時の就職試験に落っこちたのがきっかけです。
それまではものづくりが好きで、将来もものづくりをする人になりたいとずっと思っていました。美術系や建築系の学校に進学したかったのですが、当時は県外へ出るお金がなかったため諦めました。
そんな時、母親が病院で看護助手として働いていたこともあり、看護職が安定した職種だという考えが浮かびました。看護学校だったら学費を手伝ってくれるとのことだったので、まずは看護師になってお金を貯めてから好きなことしようと思い、看護師を目指しました。

看護師とは別の目標をお持ちだったと思うのですが、看護学校時代は頑張れましたか?

西川:看護学校は専門学校で、実習がとてつもなく厳しかったです。授業も興味の湧くものはなく、正直楽しいと思ったことはありませんでした。しかし、クラスメイトが面白い人たちばかりだったおかげで3年間を乗り切れました。

また、アルバイト先のラーメン屋さんの店長が熱血な人で、私が本当はものづくりを好きだということを知っており、ずっと「やりたいことやれ!」と言ってくれたため、看護師になったその先の目標を忘れずにいられました。

看護学校を卒業してからのキャリアについて教えてください。

西川:地元の市民病院で1年と11ヶ月勤務しました。最初の1年は希望で脳神経外科・内科、耳鼻科で、脳神経外科・内科は希望で行ったので楽しかったです。
ところが2年目で移動になると「やっぱりやりたいことやろう」という気持ちが強くなり、デザイン学校を受験しました。看護学生の時から虎視眈々と受験の準備をしていたこともあったおかげで合格し、12月の夜勤明けにとても緊張しながら師長さんに辞めることをお伝えしました。3年間続けた方がスキルが身につくとアドバイスをいただきましたが、看護師に戻る気がなかったため、迷わず辞めることにしました。
今思うと、人が病気を持つことや生死に関わる自己決定、人が死ぬことを体験した1年と11ヶ月は、その後のデザイン学校時代にもずっと影響を与えていました。

デザイン学校の当時はいかがでしたか?

西川:2年間、東京のデザイン学校に通いました。日中はカフェのバイトや派遣看護師をして、夜18時から22時まで学校の授業にでて、授業が終わったらまたカフェに戻って締め作業をする生活していました。
課題がたくさん出ることで有名な学校だったので、3日間徹夜したこともありました。今考えるとなぜあのような生活を続けられていたのかわかりません。

私は古民家再生や人の暮らしに興味があったので、スペースデザイン学科を専攻していました。学ぶまでは、デザインとは見た目の美しさやカッコイイもの、オシャレなものを作っていくものだと思っていましたが、そのような薄っぺらいものではありませんでした。
学校では、固定概念を一度ゼロ(概念砕きと言うらしい)にして、今本当に必要なモノやコトを、5感を使ってゼロから組み立てていくことを学びました。それを経て生まれたものがデザインされたものです。デザインすることはとても難しいですが、深く、楽しかったです。デザインに正解はないから、先生たちも私の素朴な疑問を一緒に考えて試行錯誤してくれ、そのような姿勢をとても尊敬していました。

Alt=“ほっちのロッヂ 軽井沢”

地域のお祭りでドライフラワー屋さんをしました。看護師ではなく、ドライフラワー屋さんのおねえさんとして、まちの人々と出会いました。訪問看護だとどうしても出会う人は限られてしまうけど、ドライフラワー屋さんのおねえさんもしていると、また違う角度からまちの人を知ることができました。

西川:中でも「ソーシャルデザイン」という見えないデザインについて学んだとき、ビビビっときました。アムステルダムのシビックプライドの話や、石川県の子どもも障害をもつ人もお年寄りもごちゃ混ぜで笑顔になれる行善寺の話などが印象に残っています。病院勤務の経験も影響し、建物や道具が綺麗でも人が変わらないといろいろなコトは大きく変わらないという思いがあったため、この分野に特に惹かれたのだと思います。
そして、デザイン学校2年生の夏休みからあるNPO法人でインターンし始めました。ソーシャルデザインされた活動をウェブ上で紹介したり、自分たちの地域のことを話し合うグリーンドリンクスというイベントをやったりしているNPOです。デザイン学校を卒業後、まちづくりや建築系の企業の就活をしていた一方で、インターン先の仲間と医療や福祉のモヤモヤを考えるイベントを企画していました。活動を続けるなかで、やはり医療や福祉の見えないデザインが気になるんだ、と気づき始めました。

そこで、いつもキャリアデザインの相談にのってくださっていた山中康司さんが「藤岡聡子さんが面白いこと始めるみたいだよ」と教えてくださり、聡子さんと出会いました。ほっちのロッヂの座談会に参加したり、聡子さんと直接会ってお話したりして、ほっちのロッヂで9月から活動することになりました。
聡子さんの初めの印象は、「医療・福祉にはいないような人」でした。かつてのインターン先のスタッフさんたちは自分のやりたいことは自分でつくる人たちだったのですが、それに似た雰囲気を聡子さんにも感じ、一緒に活動したいと思いました。

ほっちのロッヂで働く中でどのようなやりがいを感じますか?

Alt=“ほっちのロッヂ デイサービス”

これから庭の手入れをするという時。ほっちのロッヂに通っている方に、見守ってもらいました。

西川:ほっちのロッヂで出会った人の「生きる」を考えたり、その人がどのような選択をしていくかを目の当たりにする時、自分の人生を考える上でためになるな、と充実感を感じます。
正直にいうと、“やりがい“という言葉があまり好きではありません。「私のやりがいは〇〇です」と教えると、「それだけやらせておけば幸せなんでしょ」と思われそうで笑。「医療や福祉はやりがいがある仕事です!」「患者さんに『ありがとう』と言ってもらうことがやりがいです」と宣伝することはよくありますが、なんだか気持ちが悪いです。

「看護師さん」と呼ばれることにピンとこないと伺ったのですが、どのような思いがありますか?

西川:看護師と呼ばれるだけならいいのですが、「看護師なんだからこうするのが当たり前」と決めつけられると、わかってもらえてないんだ…と悲しい気持ちになります。私は、ものづくりが好きで、畑仕事が好きで、デザインが好きで、看護資格も持っていて、それらをミックスさせてここにいます。看護資格だけの考えではないんです。

西川さんがお仕事で大切にされていることを教えてください

西川:まず自分の人生を大事にすることです。
ほっちのロッヂで繋がった人たちの人生について毎日みんなで色々考えたり、いろいろな出来事があったりしますが、まずは自分の気持ちや人生を大事にしてから、周りのことを考えるようにしています。

病棟時代、やりたくないことをやらなくてはいけないときに、どのように対処していましたか?

西川:病棟時代は、自分の気持ちに蓋をして出勤していた記憶の方が多いです。しかし今はやりたくないことが出てきた時、皆と同じタイミングで始めずに、自分が納得してから始めるようにしています。

今は、無理なことは1人で抱え込まないようにしています。検索したら出てくることも、人に聞いて頼ります。私がやりたくないと思っていることでも、他のメンバーはそんなに苦ではない場合もあるので、「無理ー!」とゆっきーや他のメンバーに正直に伝えます。いろいろなことを天秤にかけ、それでも自分で納得できない無理なことがある場合、辞める選択をしてしまいます。

今後チャレンジしていきたいことはありますか?

西川:チャレンジしたいことはないですね(笑)これまでも、興味があることを大切にしていたら徐々に望む環境にたどり着いていたので、無理に遠くのことにチャレンジしなくてもいいと思っています。
大切にしたいことをしっかり持ちながら、日々の出来事を自分のペースでクリアして、成り行きで成長していきたいです。

Alt=“ほっちのロッヂ 西川”

まち活動で知り合った方に貸していただいた畑で、今は野沢菜と大根を育てています。訪問看護先のご家族が漬物を漬ける達人で、長野の漬物の漬け方を教えてくれるそうで、近所のおばあちゃんに野菜への愛情のかけ方を教えてもらいながら丁寧に育てています。

西川:もちろん、思い描いている未来はあります。
実家の近くの田舎で古民家を買い、自分で整えて、畑で野菜を育ててできるだけ自給自足で食べて、近所に住むおばあちゃんがサポートが必要な時には暮らしのお手伝いをしたりして…恩が巡ってゆくようなことができたらいいなとぼんやり考えています。
今、ほっちのロッヂで経験していることが、そんな将来の夢に役立ったらいいなと思います。

さいごに、看護学生へのメッセージをお願いします!

西川:今は看護師になると思って勉強をしていると思いますが、もしかしたら将来看護師ではない自分になっているかもしれません。
看護学生だからといって、必ずしも看護師である必要はないと思います。他にやりたいことがあれば、自分に嘘をつかず好きなことをして、自分のために生きて欲しいです。

興味があることを大切にして活動していると、いつか自分が望む場所にたどり着きます。頑張りすぎず、自分を大切にしながらマイペースに進んでいって大丈夫だと思います。

ーーー西川さん、ありがとうございました!
インタビューしているとき、西川さんの世界に引き込まれるような不思議な感覚でした。「自分を大切に生きる」ことは、奉仕が美徳とされがちな看護の世界では蔑ろにされやすいことだと思います。まずは自分を大切にして、それからやっと周りを大切にできると思います。良い意味で自己中心的な考え方が必要だと感じました。
西川さんの今後の歩みを、また追っていけたらと思います。インタビューへのご協力本当にありがとうございました!

のむちゃん
聞き手・のむちゃん
現在3年生。地域をフィールドにした活動に興味があります。ほっちのロッヂにいつかお邪魔したいです。

西川さんと同じく「ほっちのロッヂ」で働く菊池郁希さんのインタビュー記事はこちら

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