最近話題のコミュニティナース。今回は、なんとドクターとして働きながらコミュニティナースの活動をしているお医者さん、近藤敬太(こんどう・けいた)さんにお話を伺いました!コミュニティナースプロジェクトに参加している理由や今後の展望、そして地域での活動に興味のある医学生、研修医へのメッセージを伺いました。働き方に迷っている医学生、疾患ではなく患者さんに興味がある医学生必見です!
近藤敬太さん(こんちゃん) 愛知県豊田市出身 24歳 愛知医科大学卒業 トヨタ記念病院にて初期研修 26歳 藤田医科大学 総合診療プログラム所属 30歳 コミュ二ティナースプロジェクト第10期修了 豊田地域医療センター 在宅部門長(現在) facebook→https://www.facebook.com/FM.Dr.Kei
現在のお仕事について教えてください。
こんちゃん(以下こん):藤田医科大学の総合診療プログラムに所属し、豊田市を中心に訪問診療をしています。
訪問診療では、総合診療が中心です。総合診療科は、子どもからお年寄り、外来から在宅まで幅広く診ることができる専門科です。他の専門科とは異なり、総合診療科で大切なことは、患者さんの病気をミクロだけではなく、マクロの視点でも見ることです。健康観は、今までの生活歴や家族などの周囲の環境から影響を受けるからこそ、患者さんの疾患を診るだけでなく、患者さんの家族、地域までみることを常に考えています。
地域をみるという視点から、”コミュニティドクター”としての活動も行っています。
初期研修では循環器内科を専攻されていましたが、なぜ総合診療の道へ進まれたのですか?
こん:循環器の先生が格好良く、研修先の病院が循環器に強かったこともあり、初めは循環器内科を志望していました。
ちょうど初期研修1年目の時に、藤田医科大学に総合診療プログラムができたと知り、1度見学に行きました。そこで、総合診療の専門性の深さを知り、病気よりも病人を診る医療に惹かれてプログラム専攻の第2期生となりました。
プログラムの受講から6年が経ち、当プログラムは急成長しています。総合診療医という専門医制度ができたことも追い風です。日本では、どんな主訴や疾患でも広くカバーできる“プライマリ・ケア”、”かかりつけ医療”を専門に学ぶ場はありませんでした。例えばいろいろな病気を併せ持っている患者さんを包括的に診る、加えて地域や家族をみるという専門性。この専門性を持っている人が増えるほど国民を広く健康にできるというデータは、海外ではたくさんあります。
どんな病気も診るというのは医学生からするとハードルが高いイメージです。
こん:総合診療はハードルが高いと感じる人が多いですが、スキルを学べば誰でもできるものですし、特殊なものではありません。僕自身、学生の頃は勉強はそっちのけでラグビーばかりしていました(笑)
コミュニティドクターについて教えください
訪問看護師よりも近い存在で一緒に何かをやったり、気軽に相談にのったりしてくれる人。近所に住んでいる医療にちょっと詳しい人。それができるのがコミュニティナース、そしてコミュニティドクターです。
コミュニティナースとつながったきっかけを教えてください
こん:きっかけは僕が代表を努めた*冬期セミナーです。
その時、コミュニティデザインが熱いなと思っていたため、セミナーの全体講演のテーマをコミュニティデザインとしていました。その対談企画でお招きしたのがコミュニティナースカンパニーを立ち上げた矢田明子さんです。矢田さんとお話をする中で、地域を”健康”にするにはある程度、方向性が整理されていますが、住民を幸福にするための方策はまだ定まっていないことを感じました。
人には健康・不健康、幸福・不幸の組み合わせが4パターンあるのかなと思っています。不健康で幸せな人もいれば、健康だけど不幸せな人もいる。そこにどうアプローチするかがコミュニティナース、コミュニティドクターの出番だと思うんです。ヘルスリテラシー(健康への関心)を上げることも大切ですが、医療者がまちに出て医療の目線も取り入れつつ、住民が幸せと感じられない原因はどこにあるのか、幸福を作るにはどうしたら良いかをみなさんと一緒に見つけて行動することで、より幸福なまちにしたいと思うようになりました。
*冬期セミナー:総合的な医療を目指す専攻医、若手医師、初期研修医を対象としたセミナー
矢田明子さんのインタビュー記事https://kangotamago.com/2019/11/23/vol-5-akikoyata/
ドクターですがコミュニティナースプログラムの研修を受けられたのですね?
こん:白衣をしっかり着て、プロフェッショナリズムを学ぶ機会は多いですが、白衣を抜いで住民と一緒にどのように活動できるか(白衣の脱ぎ方)は大学や病院ではあまり教わらないですよね。コミュニティナースプログラムの研修では実際に地域の方々との関わり方を講座や実践を通して考えることができます。
医療を暮らしの中に溶け込ませているコミュニティナースはたくさん増えてきているのに、コミュニティドクターはまだまだ少ないのが現状でした。だからこそ、コミュニティナースの研修を受けて、コミュニティドクターになろうと思ったんです。
医療を暮らしの中に溶け込ませる・・・。
こん:医療にも上流下流があるのって知っていますか。
例えば、川の上流から溺れている人が流れてきて、5分後にもう1人、さらに5分後にもう1人流れてきたら、どうしますか?
どうしようもできないです。大混乱。
こん:そうですよね、“なぜ流れてくるのか”、が気になりませんか?
救急医療はとても大切です。しかし、なぜその病気にかかったのか、なぜその状態になってしまったのか、その病気の上流を根本的に治さないと、そもそも流れてくる人は減らせない。この上流へのアプローチがこれからの医療に必要なアプローチだと思っています。それは、今までの医療者と患者という関係性だけでは十分ではないと思います。
なるほど。それが白衣を脱いだ、コミュニティドクターとしての活動なのですね!
こん:はい。普段は豊田市で訪問診療を行っていますが、コミュニティドクターとしては2週間に1回、豊田市の中でも過疎化が進んでいる、中山間地の稲武という地域に行き、社会福祉協議会の人と一緒にフィールドワークをしています。このときは、見た目も心も白衣を脱いで、医師だと名乗らないこともあります。具体的には、住民の方々と暮らしの中での悩み事や相談事などを話し合ったり、地域のキースポットとキーパーソンを見つけたりしています。今、具体的に活動しているのが、「稲武”おせんしょさん”プロジェクト」です。三河弁で”おせっかいをする人”のことを”おせんしょさん”と言います。おせんしょさんはコミュニティに精通していて、地域のキーパーソンになると思うんです。おせんしょさんを見つけ、おせんしょさんから情報を得て、解決策を一緒に考えていく取り組みです。僕が地域を良くしようなんてとてもおこがましいですが、暮らしに入り込み、一緒に活動することで、それぞれのコミュニティが持っている元々の力やつながりを強められるきっかけになれたら良いと思っています。
地域に対する活動は行政も担っている中で医師がコミュニティに入る意義を教えてください
こん:まだ具体的には見つけられていませんが、ソーシャルワーカーと看護師と医師の目線はそれぞれ違うので、この三者の目線の違いをうまく生かして地域に出て行くことが大切だと思います。患者さんには病気になる前の人生、そして病気になった後の人生があります。僕は医師なのでどうしても病気や病気になっている患者さんへと目が行きがちになりますが、ソーシャルワーカーや看護師の方々と考えを共有することで、その人の人生はもちろん、今後残された人の人生まで踏まえた医療を提供していきたいと思っています。
また、地域に出ることは医師自身にとっても意義があると思います。医者も、まちに育てられています。そこの人たちの生活を支えているという意識は常に忘れてはいけませんよね。医学知識だけではなく、住民の方々が本当はどのように生活を送っているかを知ることで、一番求められている医療が提供できると思っています。例えば、足を骨折して動けないおばあちゃんがいたとして、もしおばあちゃんが住んでいる町が坂の多い町だったら、高リスクなオペでもやる意義があるかもしれませんよね。この選択をするうえでその人の生活背景を知っておくことはとても大切です。
お年寄りだけでなく、若者へのアプローチはどのように考えていますか?
こん:子どもの頃に受ける教育は本当に大事ですよね。子どもや若者へのアプローチはもちろん考えなければいけませんが、実は一番アプローチが難しいのは40代50代の男性です。若者はまだ地域での活動などにも興味を持ってくれますが、中高年の男性は、仕事が忙しかったり、食事、運動といった生活も乱れがちです。また、その親を見て育った子どもたちの健康観に大きく影響を与えていることも問題です。
そこで、今は居酒屋、スナック、喫茶店などへのアプローチを考えています。以前パチンコ屋さんで検診をしたというニュースが話題になりましたね。同じように、男性へうまくアプローチする方法を模索中です。
何より楽しんで仕事をしているように見えます。
こん:楽しいです!
僕は”人のつながり”が好きなんです。それは幼少期の経験が原点になっています。当時僕は、親の離婚で三重県に父と住んでいましたが、父のお金使いが荒く、とても裕福とはいえない家庭でした。借金取りが来るから家に帰れないということもあり、友達の家でお世話になったこともあります。そこでの友達やその家族はみんなとても温かく、ご飯をごちそうしてくれたり、泊まらせてくれたり、強いつながりを感じられました。
愛知県に来たのは中学校3年生の時です。愛知県は三重県に比べると都会で、コミュニティのつながりが少し物足りないと感じるとともに、コミュニティの大切さを実感しました。住んでいる地域が、より暖かく、みんながつながれるような場所だったら、僕のような子どもも幸せだなあと。この思いが、今のコミュニティドクターとしての活動に通じています。
普段は白衣を着て診療をしていますが、コミュニティドクターとして活動するときは白衣を脱いで自分も地域住民と同じ視点でまちをみる、この切り替えができるのも楽しいです。普段の訪問診療でも、つながりを感じられる場面はたくさんあります。終末期の方も多いですが、患者さんや御家族と一緒に、病気の中でもその人らしい人生を全うできるようにサポートし、感謝して頂けるときが一番嬉しいです。
今後、挑戦したいことを教えてください
こん:コミュニティドクターの活動をどんどん広めていきたいです。
最終的には、『豊田市と言えば総合診療』、『総合診療を育てるまち、豊田市』ってくらいに総合診療が豊田市に浸透してくれたら嬉しいです。豊田市を世界一健康で幸せな町にするために、今はコミュニティ・ホスピタルという新しいシステムの始動に向けての取り組みも進めています。
コミュニティ・ホスピタルについて教えてください
こん:コミュニティ・ホスピタルは担う機能が多種多様なため一言で表すことは難しいのですが、イメージとしては病棟、外来、在宅がシームレスに連携し、かつ、地域に開かれている病院です。コミュニティ・ホスピタルでは、医療者が地域に出て活動したり、地域の方が病院に来て何かを体験したり活動したりできる場を作りたいと考えています。
新しい挑戦は不安でしたか?
こん:あまり不安に思ったことがないですね。
大事にしていることは、”何をやらないか”をきちんと決めておくことです。何をやるかを決めることより大切だと思っています。 僕は誰かのためにならないこと、ワクワクしないことは絶対やりません。勿論、やりたくなくてもやらなければいけないことはたくさんありますが、誰かのためにならないことはあまりワクワクしないですし、全くワクワクしないことは続かないですよね。中途半端になってしまい、期待にも応えられないと思います。
こんちゃんにとって働くとはどういうことか教えてください
こん:WILL(やりたいこと)・CAN(できること) ・MUST(やるべきこと)の3つが重なっている部分をやっていられたら良いなと思っています。この3つが1つの◯になっている人が最強だよね!
あとは、”仲間と一緒に”ということも大切にしています。より遠くに行くために、一人ではできないことも仲間を作って一緒にやっていきたいです。
最後に、医学生、研修医、進路を考えている人へのメッセージをお願いします
こん:学生のうちは遊んで、医療関係以外にもいろいろな人と仲良くなってください。特に、医師になると 医療者しか周りにいなくなるので、できたら研修医になってからも、中高の同級生や医療者以外のいろいろな人たちと仲良くなれると素敵だと思います。自分の視野を広げ、そして仲間をたくさん見つけて欲しいです。
研修医の皆さんはとても忙しいと思うので、まずは臨床に励んでください!そして、もし良かったら、総合診療を見てみてください!疾患によらず、あらゆる人を診療したい人、病気よりも病人を診たい人、病人だけでなく健康な人や地域までみたい人、そんなあなたはきっと総合診療向きです。
―――インタビューした学生より
以前は、「働くのはまだ先の話!仕事が苦痛でも、私生活が充実していれば良いかな。」と働くことに対して深く考えたことがありませんでした。今回のキャリア支援プログラムでは、アウトプットとしてのインタビューに加え、インプットとして「働くとは」「自分とは」「感情とは」など、様々なテーマのレクチャーを受けることができ、キャリアを考えるとともに、感情やストレスとの向き合い方、自分の生き方などを改めて考える良い機会となりました。
インタビューを通して、こんちゃんが心から楽しんで働いていることが伝わってきました。こんちゃんの考えのようにWILL・CAN・MUSTが1つの◯となり、自分自身がワクワクできる働き方・生き方をしたいと思います。
初めてのインタビューでしたが、多くの方々のサポートのおかげで、本当に良い経験をさせていただきました。ありがとうございました。
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