「根拠のある障害児療育をスタンダードに」株式会社ナーシング代表・鈴木ゆきこさんにインタビュー!

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「業界にまだない(少ない)ならば、作ろう」という精神で、根拠をもって子どもたちを療育する放課後等デイサービスを立ち上げ、運営する株式会社ナーシング 代表取締役の鈴木ゆきこさんにお話を伺いました。業界の課題を見据え、突き進む鈴木さんのパワフルさと使命感の源泉について、お話を伺いました。

株式会社ナーシング(以下、ナーシング)は、業界の“もっとできることがある”を形にしながら「医療介護福祉業界のNEW STANDARDになる」ことを目指し、日々挑戦を続ける愛知県名古屋市の医療福祉ベンチャーです。現在は放課後等デイサービスを3店舗運営しています。

今回の記事はこんな人におすすめ!

  • 学校保健や小児科など、小児分野に興味のある方
  • 児童福祉、障害者福祉など福祉の領域に関心のある方
  • 誰かの困りごとを解決するモノやサービスを生み出していきたい、起業家精神のある方
  • 家族への支援に興味のある方
鈴木ゆきこさん
鈴木ゆきこさん
愛知県名古屋市の大学病院で、7年間看護師として勤務。
もっと患者さんやご家族の想いを深く学びたいと思い、在職中に通信大学へ編入学し、心理学学士を取得。根拠に基づく療育の提供、スキルと同時に人間性の向上を目指す人材育成、医療福祉業界の労働環境の高水準化など、医療・福祉事業での「もっとできることがある」を形にすべく、2020年5月に株式会社ナーシングを設立。
*放課後等デイサービス(以下:放デイ)
児童福祉法を根拠とする、6歳から18歳までの障がいのあるお子さんや、発達に特性のあるお子さんを対象にした療育施設。学童のように利用する方が多い。土曜日などの休みの日にもお預かりできるため、放課後「等」とついている。

聞き手/野村 奈々子  編集/ハルさん

目次

株式会社ナーシングを立ち上げたきっかけを教えてください

鈴木ゆきこ(以下、鈴木):看護師として7年間勤務し「看取りができる施設を作りたい」と、長いこと思っていました。今の事業とは少し離れますが、私の最終ゴールはそこです。病棟での看護の目的には健康の回復・保持増進や疾病の予防、苦痛の緩和など、その方らしい死を迎えるための支援があると思います。なかでも「その方らしい死」という言葉が自分に刺さりました。

病院時代、40〜60代の若い世代の看取りの現場にも携わらせていただきました。死期が近づいている方を目の前にすると、「人生を終えるこの瞬間はこれで良かったのだろうか」と思うことがありました。本当は、一人ひとりが人生で嬉しかったことや悔しかったこと、たくさんの思い出を振り返り、家族に伝えられなかった想いを抱えているのではないかと思います。

しかしながら病院でその方の想いを聞く時間は、私たちナースには限られています。誰に会いたいか・どんな言葉を伝えたいかなど、叶えられない環境があることが現実です。

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そこで、私が実現できなかったことをできる施設を作りたいと考えました。同時に「その人がその人らしく生きる」という点で、何かできることがあるのではないかと。28歳の時に病棟を辞め、有料老人ホームでアルバイトをしていたのですが、働いている方々が擦れてしまっているのを実感しました。みなさん、元々は誰かの役に立ちたいという思いが強いはずですが、職場を辞めるか・働き続けるかの二択になっている状態をみて、労働環境に対する課題も見えたような気がします。

ナーシングを立ち上げた今、その方らしい生き方や働く環境を大切にしていけるような、医療・介護・福祉業界のニュースタンダードになりたいです。

ー放デイの立ち上げ・運営のメンバーはどのような方々がいらっしゃるのでしょうか?

鈴木:実現したい世界観や価値観の合う方と一緒に働いています。一緒に働く方のエネルギーを下げないためにも、その方の価値観と会社の理念が合う方と働きたいですね。

なぜ、障害児の療育に取り組もうと思ったのですか

鈴木:きっかけは知人に障害児の療育を勧められたことです。調べていくなかで、さまざまな課題を感じ、取り組もうと決意しました。少子高齢者社会で社会を担うのは子どもたちになっていきますが、障害児の診断を受ける子が増えている現状もあります。この子たちが正しい療育支援を受けることができれば、課題をクリアしながら自己実現していける大人になるかもしれません。そして社会に飛び出し、社会を担う一員となる。

その子の特性は本人にとっては普通のことであっても、周囲からは色眼鏡で見られてしまいます。そして自己肯定感が下がっていき、挑戦を避ける子も出てきてしまいます。課題をクリアできず周囲からの理解も得られず、自分の想いを伝えることができない葛藤から、働く年齢になっても社会への参加が難しい方も増えています。社会性が発達しないまま大人になってしまった子どもたちがたくさんいる、ということです。課題をクリアしながら成長していける方が増えることで、日本の未来も変わってくると考えています。

私は学生時代から多くの環境に身を置かせてもらっていたためか、さまざまな人の立場に経つことができます。放デイにいる子どもたちの居心地の悪さや、学校での不満も理解できるような気がします。看護学校時代の経験が、今に繋がっているのだなと感じますね。知っていくうちに業界の課題が多く見え、支援者のマインドの教育も行いたいと考えました。

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ー鈴木さんが考える、学校の現場の課題を教えてください

鈴木:学校の現場では発達障害に理解を示してくださる先生と、そうでない先生の差が大きいと感じています。叱ることは大事ですが、この子の特性を理解したうえで向き合うことが重要です。その子の特性を認め、柔軟なアプローチができる方が増えることが理想的です。

また、学校の先生方から私たちの介入を拒まれる傾向があります。全国に放デイは約13,500箇所ほどありますが、質にばらつきがあるのが現状です。また、放デイは民間の会社でも設立可能のため利益目的の企業も参入しやすいという観点から、現場の先生方からの印象は必ずしも良いとはいえません。ですが、学校と連携を図ることでコメディカルや地域の方との支援体制を築くことも可能となるはずです。親御さんのために、学校と放デイがより連携できるといいなと思います。

ー発達障害は上手く障害と付き合っていくイメージがありますが、早期の支援によって限りなく定型発達に近づけられるものなのでしょうか?

鈴木:その子の特性や発達スピードの個人差・先天性の重度の知的障害の有無・療育の開始時期など、さまざまな事情により難しいです。例えば、定型発達の子が真っ白だとして障害が黒だとします。黒は完全な白にはなれないけれど、限りなく薄いグレーには近づくことはできます。近年グレーゾーンという言葉を聞きますが、グレーも黒は黒であって、薄い黒なだけ。黒い部分を私たちが支援することで、限りなく白に近づいていくと思います。

療育の場面では平日2時間程度しか関わることができないのが現実です。仮に週4回来てもらったとしても、自宅や学校で過ごしてる時間のほうが圧倒的に長く、その子を取り巻く時間や環境をすべて支援することは難しいです。ご家族様や関わるスタッフが連携し支援を行う必要があります。

お仕事のやりがいを教えてください

鈴木:子どもたちの顔つきがだんだんと変わり、笑顔が増えていくことがやりがいだと感じています。在宅ホスピスの時からなのですが、成長の伴走をさせていただいているようなイメージを強く持っています。少しだけ手を差し伸べるような感覚です。表現が難しいのですが、私は自分のことを「その子の大人の友達」と思って一緒に過ごしています。

ー顔つきが変わる、何か思い出に残るエピソードはありますか?

鈴木:そうですね。あるお子さんの話ですが、動く車にしか興味を持たないお子さんがいました。毎日職員さんがさまざまな活動をその子ができるように、意図を持って寄り添ってくれたおかげで、少しずつ行動も興味の幅も広がっていく場面を目にしました。

毎週月曜日になると学校に行きたくないと思う子もいます。発達障害をもつ子どもたちは、何かしらミュニケーションに対して課題を持っています。周囲と上手くコミュニケーションを取ることができずに、学校がつまらないと感じてしまうようです。つまらないと思うと、そのまま不登校に繋がります。そのような子が「ナーシングに行くために頑張って学校に通う」と言い、今では普通に通えるようになった子もいますね。また、ここでお友達とコミュニケーションを取れるようになり、学校のお友達とも遊べるようになったという話を聞くこともあります。たくさん褒めて自己肯定感・自己重要感・自己効力感を伸ばすことが変化に結びつくのだと実感しましたね。

ー他に、お子さんや保護者の方に伴走していくうえで大切にしていることはありますか?

鈴木:自分の価値観で物事を見るのではなく、その子を理解したいという姿勢が大事だと思います。例えば、その子が誰かを殴ってしまった・物を壊してしまったという行為には必ず理由があります。その理由に対して向き合うと同時に「お弁当の蓋が壊れていて、上手く閉じることができずに嫌になってしまったのかな」など、なぜできなかったのだろうかと考えます。

発達障害の子どもたちはこだわりが強く、手順通りに物事を進めなくては気が済まないといった特性があります。その手順から外れることで混乱を招いてしまうことがあるのですが、どうしても「こうじゃないよ。」と注意をしなくてはならない場面があります。ただ叱るのではなく、その子がどのように考え、どのような気持ちを抱いているのかを理解する姿勢が、次の支援に繋がると思います。

また、「これは相手を嫌な気持ちにさせてしまう」「これはしてはいけない」など、社会で必要となるコミュニケーションや社会性をナーシングで身に着けて欲しいです。好ましくない行動をとった際に、曖昧に伝えることで「これは世の中で許される」と勘違いを招くこともあります。その結果、辛いのは本人なので、はっきりダメなことはダメと叱ることが大切です。

ーその子の将来を見据える、その子ファーストですね!

鈴木:私たちの伝えることが、その子がいつか理解できれば良いと思っています。その瞬間ではなく、その子の将来に向けてメッセージを伝える。そのイメージが近いかもしれないですね。

子どもたちはゴールに近道をしようとすると、自分を理解してもらえない場所だと捉え「ここも信用できない」と感じてしまう可能性もあります。そのような場所であってはならないので、信頼関係を築いたうえで、短期・長期目標を目指す。今よりも将来を第一優先に考えます。

今後チャレンジしていきたいことを教えてください

鈴木:その子の自立を支援していきたいと考えています。子どもたちが幼い頃は、少し落ち着きがなくても「しょうがないよね」「かわいいね」と周りの人が助けてくれますが、その子が60代になったとき、周りの人が「かわいい」と言って助けてくれるでしょうか。保護者の方にとって、その子の未来を見据えることはとても辛いことだと思います。「私がいなくなったあと、この子は1人で生きていけるのかな」と、顕在化しない悩みを保護者の方が多く抱えているなかで、私たちが一緒にその子の自立を支援することが解決策だと考えます。自立の在り方・支援とは一体何なのかと、探り続けることが放デイや障害児療育のスタンダードであって欲しいと考えています。

国としても、療育施設から保育園や幼稚園に行けるようになると「移行加算」がつきます。中学生に進級するときは、放デイではなく、部活動に行けると良いということです。医学とは違い、研究があまり進んでいない領域ですが、自立すべき年齢を見据えた根拠ある療育支援が必要とされています。まずは、根拠のある障害児療育をスタンダードにしていきたいです。
「現在の看護業界にないものであれば、起業をすれば良い」というのが私の価値観であり、「この世に無いのであれば作れば良い!」と使命感を感じているのかもしれないです。

看護学生に向けてのメッセージをお願いします

鈴木:私が学生時代に患者さんから「ケアしている方よりもされている方が辛いんだよ。」と、声をかけてもらったことを今でも覚えています。

私自身が入院を経験した際に、看護師の忙しさに遠慮してナースコールを押せずない方の気持ちや、いつ誰が部屋に入ってくるか分からないヒヤヒヤ感を感じました。経験したことを糧にアセスメントができるのは看護師のやりがいだと感じます。

看護技術を身に付けることも重要ですが、患者さんの視点に重点を置きながらアセスメントができると、より良い看護の深みが出て、面白いかと思います。これから大変なことがたくさんあるかと思います。病院で患者さんの側にいるのは、私たち看護師です。ぜひ、本当の意味で寄り添えるナースになれるように応援しています。

ー鈴木さん、ありがとうございました!
放課後等デイサービスなど、子どもの発達に関わる業界の課題について詳しく教えていただき、初めて知ることばかりでした。適切な発達への支援が適切なタイミングで届けられるよう、業界のスタンダードを変えていってください!!!

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