鹿児島県・徳之島で離島の緩和ケアを考える【たまごのつぶやき】

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「住み慣れた場所で最期まで」は、地域包括ケアシステムでも掲げられてきたキーワードです。ところが住み慣れた場所で最期を過ごすことのハードルには、地域差があると思います。2022年6月末、徳之島徳洲会病院を見学し、緩和ケアチームを中心に同行させていただきました。徳之島では、島民の看取りに向かう過程や看取りをどのように支えているのでしょうか。

ななこ
今回の記事を書いた人・のむらななこ
徳洲会が始まった徳之島での、現在の医療をみたいと思い、お邪魔しました。コロナ禍にも関わらず受け入れてくださったみなさんに感謝申し上げます!
目次

徳之島って、どんな島?

Alt="徳之島 徳洲会病院"

徳之島のメインストリート

鹿児島県の大島郡に属する、人口約2万人の離島です。島をぐるっと1周するのにおよそ2時間ほどの程よい大きさ。島の農業生産額1位はサトウキビで、奄美群島の黒糖焼酎もサトウキビが原料です。そのほか、バレイショやマンゴー、タンカンなどの果樹園芸や、牛の生産が盛ん。

訪問看護師・田畑さん
お隣の奄美大島は観光が得意だけど、徳之島はそうじゃない。素のまま生きられるところが大好きだー!

ななこ
闘牛もみてみたいです!

今回の徳之島までのアクセス

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大きなフェリーで向かいました

私が住む東海地方からは、中部国際空港→那覇空港(格安航空:¥8,370)、那覇港→亀徳港(フェリー:¥5,260)でした。徳之島には空港がありますが、多くの場合乗り継ぎが必要です。今回は沖縄の風も感じようと思い、沖縄からゆっくりとフェリーで向かいました。

徳之島までのアクセスが分かりやすいページがこちら:https://www.neriyakanaya.jp/access/toku.html

徳之島の医療の現状

徳之島には、病院が4つ(うち精神科1つ)と診療所やクリニック、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、グループホームなどがあります。(徳之島医療マップ:http://www.amami-hca.or.jp/PDF/tokunoshima_map.pdf

徳之島徳洲会病院は島唯一の総合病院で、急性期〜慢性期、在宅医療まで一貫して行っています。合計特殊出生率日本一の徳之島の産科を支えているのも、徳之島徳洲会病院です。救急外来には島内のあらゆる急患が運ばれてくるので、ときには三次救急レベルの患者さんも運ばれてきます。県外に移送した方がいいと判断すれば、ドクターヘリや自衛隊のヘリを要請します。
https://www.tokunoshima-tokushukai.com/

ななこ
合計特殊出生率が日本一であり、長寿の島でもある。文字通り、ゆりかごから墓場までみるための医療体制ができるまでは大変だったのでは。

最期まで、住み慣れた島で暮らしたい

多くの島民に共通する願いは、「住み慣れた島で最期まで過ごしたい」というものです。ところが徳之島では、終末期を在宅で過ごすことが、必ずしも叶えられない現状がありました。

具体的には、治療を受けに徳之島を出たら、帰って来れないままなくなってしまうケースがあります。放射線治療や抗がん剤治療を求めて鹿児島市内の大きな病院に向かうも、治療の過程で飛行機に乗って徳之島に帰る元気がなくなり、言葉通り帰らぬ人となる方もいらっしゃるようでした。
「医療者が、島を離れて治療を受けに行くリスクと治療の効果について、しっかりと情報提供して本人に選んでもらうことが大切」と訪問看護師・田畑さん。

また、がん末期などの症状が重い患者さんを、自宅で支えるだけのスタッフの知識や技術が足りなかったことも、「最期まで家で過ごす」という選択肢をないものにしていたのだそうです。

緩和ケアチームの実際

徳之島徳洲会病院には、さまざまな応援の医師・看護師が訪れます。緩和ケアチームの場合は、月に1回-数日間、緩和ケア医が1名来院し活動しています。応援の医師は、東北大を筆頭に複数病院から協力を得ています。数日間で病棟や外来、訪問診療の患者さんを診てまわり、症状の緩和やアドバンスケアプランニング、退院の支援に加わったり、勉強会を開催したりしています。

頼りにされている場面や、職員とのコミュニケーションを見学し、1ヶ月に1回の数日間で、徐々に緩和ケアチームが院内での信頼を獲得していった様子が伺えました。

印象的だった場面

case1 通院方法

60代代女性 進行性胃がん
徳洲会病院の外来で化学療法を行っていたが、輸血が必要になり入院した。検査結果では腫瘍は増大しており、疼痛も増強しているため、当院で抗がん剤の変更を検討している。一方で、本人・家族が島外の病院にセカンドオピニオンを求めている。

課題

  • 絶食しており、点滴で水分と栄養を補っている。点滴をつけたまま飛行機には乗れないので、調整が必要
  • 移動中に痛みで困らないような疼痛コントロール

緩和ケアチームの働きかけ
鹿児島市内の病院へのアクセスを確認
→点滴なしでも過ごせるよう、ジュースなどを経口摂取可能か確認。空港と病院間の経路で倒れた際の緊急時の対応を受診先と調整するようMSWにお願いしていた。医療用麻薬を調整し、使用方法を指導していた。

ななこ
離島ならではの移動や搬送に関する問題をクリアしながら、調整する必要があるのだと感じました

Alt="徳之島 緩和ケア"

case2 薬剤の調整

離島に関わらず、在宅らしい場面がありました。在宅では、しばしばPCAポンプで自分で痛みが強いときに麻薬を追加したり、ご家族が内服をコントロールしたりする場面があると思います。

実際に私が他の病院で研修をしていたとき、一時退院する末期がんの患者さんに泊まり込みで付き添ったことがありました。PCAポンプは間隔を設定できますが、内服では薬剤の効果を感じられなかったとき、本人やご家族から「次はいつ飲んでいいの?」と聞かれました。学生である私は全くわからなかったので、半減期を家族とネットで調べたことがありました。

このように、本人やご家族に、追加で飲むときは何時間空けたらいいか、また何回まで使用しても良いかを伝えることは重要です。また、同時に薬の効果を聞いて調整していけば、薬への理解とアドヒアランスも向上するのだろうと思います。薬の使い方を紙に書いて伝えたり、電話で相談したりしながら、一緒に成功体験を重ねていきます。

本人・ご家族に限らず、医療者でも同様です。レスキューとして処方された薬剤を、どのくらいの頻度で何回まで投与していいのかを認識している看護職がどれくらいいるでしょうか。朝になって「なんだ、もっと打ってもよかったのか」となるより、レスキューがレスキューとして機能するよう、薬の効果と副作用、半減期や使用方法を理解しておくことは重要です。

訪問看護師・田畑さん
自分で理解していないと人には教えられませんものね。

緩和ケアチームの効果

以前は、死の受け入れについて看護師が関与することはほとんどなかったのだとか。医師に任せることが多い一方で、しっかりと説明して終末期の方針を家族と話し合うことができている医師も多くはなかったそうです。看護師さんが一番家族に近い存在として活躍している印象を受けましたが、その裏には、関わり方やコミュニケーションを学んだ努力があったのだと感じました。

また、緩和ケアチームが立ち上がり、活躍することによって、
・終末期の患者さんのドクターヘリ要請をなくすことができた
・病院内の終末期患者さんのコンサルが舞い込むようになった
・病棟から訪問看護に「こんな患者さんなんだけど、帰せるだろうか」という自宅退院のための相談や依頼が増えた

以上のような効果があったといいます。これにより、病気を抱えた患者さんが、安心して自宅で過ごす選択肢が増えました。病院を望む方も、在宅を望む方もどちらもいるなかで、選べることの幸せは大切だと感じます。

訪問看護師・田畑さん
緩和ケア=がんだけではありません。がん患者さん以外にも、非がんの患者さん(心不全や呼吸器疾患、神経難病など)の相談も増えました。

離島で、最期まで暮らす

Alt="徳之島 緩和ケア"島で暮らす人こそ、その土地への愛着がある人が多いのではないかなと思います。島のことが大好きな人たちが、自分の死に場所を選べることは、とても重要なテーマだと思いました。現在の徳之島では、在宅で看る選択肢を知ってもらえるよう、根気強く患者さん・ご家族に向き合っています。かつては家で死ぬのが当たり前だったはず。「そういえば、おばあちゃんは畳の上で亡くなったな」と、記憶がある今のうちに、再び浸透していけたらいいのではないでしょうか。

徳之島徳洲会の緩和ケアチームでも、町長さんに考えを伺ったり、島民の方々にACPについて知ってもらう取り組みや各訪問看護ステーションとの関係性づくりを進めたりと動いています。小さな活動の積み重ねで、島民の人の看取りと、看取りまでの過程がより良いものになるといいなと感じました。※看取りまでの過程も大切にしたいですね。最期まで良く生きるために!

足りないからできない、ではなく、足りないので借りてくる。教えてもらう。学びも人も循環させるという姿勢が、各地の医療や福祉の質を高める鍵になるのではないでしょうか。

訪問看護師・田畑さん
島だから諦めることはしたくないですね。島だからこそできることもあり、足らない部分を補いながら既存の文化も大切に島ならではの生き方を大切にしたいですね^^

ーーー徳之島徳洲会にお繋ぎいただいた田上先生、私の滞在をお世話してくださった田畑さん、受け入れてくださった職員の皆様、本当にありがとうございました!

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