あるときは企業の経営者。あるときは訪問看護ステーションの管理者。またあるときは協会のコミュニティの運営者…人生のミッションをさまざまな形で重ね合わせる岩谷さんの生き方は、これからの時代を生き抜く看護職の方々のヒントに溢れています。
看護職であることを生かしながら、何者かになって活躍していく未来をつくろうとする岩谷さんの生き様をご一読ください。
今回の記事はこんな人におすすめ!
- 終末期ケアに関心のある方
- 学び続ける環境づくり、組織づくりに関心のある方
- 訪問看護の仕事に関心のある方
今回インタビューさせていただいたのはこの方!
訪問看護ステーションここりんく代表/日本終末期ケア協会代表理事/アステッキホールディングス株式会社COO
急性期病院を経て、株式会社アステッキに入社。日本終末期協会の立ち上げ後は、協会の運営するここりんくを立ち上げる。現在は経営者・管理者として、専門職が学び続けていくための組織のつくり方に向き合っている。2023年春から看護師歴20年目。
ここりんくさんにお邪魔した際の様子はこちらの動画にまとまっています!
看護師を目指したきっかけを教えてください
岩谷真意さん(以下、岩谷):医療系のテレビドラマに影響を受けたと思います。当時は、看護師がなりたい職業のBEST3くらいに入るような世代だったと思います。また、母親が看護助手をしていたこともあり、家に看護師さんが集まるような家庭でした。仕事上の苦労話もありましたが、それ以上に仕事の話をしながらイキイキしている人たちを見て、自然と医療の道に関心を持ちました。
本格的に看護師を目指し始めたのは、高校生のときの職業体験で高齢者施設に行ったことがきっかけです。高齢者の方の足浴をお手伝いしたとき、垢がいっぱい出てきたんです。周りの子が嫌がるところを、私は迷わず手を入れられました。気持ちがいいという患者さんの言葉が嬉しいと思えたんです。周りの子との反応の違いをみて、「私は看護師に向いているかもしれない」と思ったことが、自分で道を選んだ瞬間です。
現在のお仕事に至るまでのキャリアを教えてください
岩谷:看護学校を卒業し、日本一救急搬送を断らないといわれている神戸市立中央市民病院の手術室で勤務しました。24時間重症患者がいつ搬送されてくるかわからないような病院でした。
その後、結婚して子どもが生まれたので夜勤が免除される外来に移りました。外来ではがん患者さんと出会うことも多く、がんの治療ができなくなった患者さんがこれからどう過ごすかを考えるタイミングに遭遇することが多かったんですね。「これからこの人はどのように支援を受けながら生きていくのだろう」と考えるようになり、緩和ケアに関心をもちました。その後、緩和ケア病棟で10年間勤務しました。
現場はとても楽しくて、15年くらい同じ病院で働いていたわけなのですが、だんだんと看護師になってからどう生きていくかを考えるようになりました。看護師として、認定や専門資格をとるなど、一つの分野を極める方法もあると思いますが、他の分野にも進んでみたいと思っていました。
一旦管理職として勤務し、基本的なマネジメントスキルを勉強していたとき、転機が訪れました。ある日、スタッフのなかから「グリーフケアについて学びたい」と要望がありました。講師を引き受けてくださる臨床心理士さんも見つかったのですが、いざ勉強会の企画を進めようとすると、上司から「講師は面識のない人なので、話は進められない」とストップがかかりました。
ここで私は何をしていったらいいんだろうと壁にぶち当たり、自分の思い描く学び場を実現するには、学び場を自分でつくるしかないと思いました。
また、今では「早期からの緩和ケア」は学校でも習うと思いますが、これは私が緩和ケア病棟で働いていた15年前からずっと言われてきたことなんです。ただ、実際にその取り組みが看護師さんや患者さんレベルまで浸透するには時間がかかっていたので、専門職と患者さんの架け橋を誰かが作らないといけないなと思っていました。これが、日本終末期ケア協会を立ち上げる構想につながりました。
一方で副師長になったときに、初めて病棟として黒字だ、赤字だと言われるようになり、経営の視点を求められました。長く看護師として働いてきたのに「自分は何も知らないんだ」と思いました。協会を立ち上げる前に、まずは一般的な社会の仕組みを知ろうと思い、アステッキに転職しました。当時教材制作の担当をしていたアステッキでは、お客さんのニーズや経営の視点を学ぶことができました。
日本終末期ケア協会立ち上げへの想いを教えてください
岩谷:まず一つ目は、緩和ケア病棟で10年働いていたので、認定看護師や医師の伝えようとしていることが分かるようになりました。しかし、これだけ勉強して経験を積んでも、それを証明する物がないんですよね。
私にとっては認定看護師も、資格取得のために勉強しに行くにはハードルの高い資格でした。終末期ケアを勉強したい人はたくさんいるだろうし、忙しい人でもチャレンジできるような場所を作りたいと思い、日本終末期ケア協会として、終末期ケア専門士という資格をつくりました。
「これなら勉強できるかも」「これなら頑張れるかも」と思えるものを提供することで、ちょっと勉強することですぐに現場に生かせ、ありたい自分に一歩近づけるのが資格だと思います。自分ができるケアを見つけたり、自分が看護師として存在する意味ややりがいを見つけられたりすることが、「明日からも頑張ろう」と思える力になると思います。
また、職場や業務、ケアについて、近い存在だからこそ相談しにくい状況があると思います。でも、協会で終末期ケアを学ぶ仲間は、志は同じだけど直接的な利害関係のない関係性であり、安心して相談しあえる程よい距離の存在なんですよね。これからも、理想を語り合い、相互に学び合える場所を作っていきたいです。
ー程よく離れているからこそ、夢を語り合える、やりたいことをお互いに応援しあえる看たまたちにも共通するところがありそうですね。
ー日本終末期ケア協会として提供するコンテンツは、医療だけではなく、さまざまな分野が織り交ぜられているのはなぜですか。
岩谷:医療だけではなく、ほかの領域の勉強も大事だということは、患者さんが教えてくれたと思います。終末期の患者さんと関わるとき、医学的な知識は絶対に必要ですが、患者さん本人が死期を前にして漠然とした不安を感じたり、家に帰りたいけど家族を気遣って本音を言えない方がいたり…
看護師として、というより、岩谷真意として、あなたのことを知りたい、言葉を受け取りたいと、どう伝えたらいいだろうと思ったんですよね。これを平たい言葉では信頼関係というのかもしれませんが、どのように相手と向き合ったらいいのかを考えるなかで、医学だけの知識では限界があると考えました。
身体的な苦痛以外の部分を緩和するために、哲学や心理学の知識を用いたり、人間そのものを知るために人類学を学んだりして、考え方の引き出しをもつことで余裕が生まれていきました。
このような経験から、日本終末期ケア協会の講座には、医療以外の分野にも触れられるコンテンツが用意されています。
コミュニティ・職場づくりで大切にしていることを教えてください。
岩谷:職種や年齢、性別で人を差別しないことをモットーにしています。「新人だから…」「学生だから…」などの枕詞は抜きにして、年下とか年上とか関係なく、素晴らしい人は素晴らしい。
例えば看たまノートもそうです。自分が看護学生のころは自分のことで必死でしたし、いろいろな先輩の働き方をみんなに届けたいとは思わなかったと思います。コミュニティづくりについて20代のうちに取り組めているって、本当に羨ましいなと思います。
ここりんくを立ち上げたきっかけを教えてください
岩谷:終末期ケア協会を立ち上げてから2~3年は、どのようにすれば現場の看護師さんの学びの場を作れるか、どうしたらエールを送れる場をつくれるかで必死でした。
しかし、協会の活動をしていくなかで、現場の感覚を持っておくことの重要性を感じました。協会や一般企業で経験を重ねた今の私が、今度は本気で現場の看護師さんたちが幸せに働くことのできる環境をつくったらどうなるのかを挑戦したい。看護の現場を離れたからこそ、看護師のポテンシャルの高さや、分析力、やりきる行動力など看護師の素晴らしさに気がついたので、自分のつくる現場で自由に看護師の力を発揮してほしいとも思ったんですよね。
病院の終末期ケアをみてきたので、在宅や非がんのケアを考えることが自分のこれまで取り組んできたことや、チャレンジしたいことと重なるなと思い、訪問看護ステーションここりんくを立ち上げました。
ー今まで積み重ねてきたことの集大成なんですね
岩谷:自分が発信していることが実際にできるのか?という、自分への挑戦だと思っています!
今後チャレンジしていきたいことを教えてください
岩谷:私はプレーヤーになりたい訳ではなく、次世代の看護師が看護師をやめなくてもよい世の中を作りたいと思っています。潜在看護師が70万人いると思いますが、なかには続けたくても続けられなかった人がいると思います。
看護師のポテンシャルは高いと感じていますし、これからの時代の看護師は、看護をするだけが仕事ではないと思います。“看護”を武器にして何者かになるのか、看護の価値をアップデートしていく、そんな時代がきていると思います。
ちなみにここりんくでも、スタッフそれぞれがキャッチコピーをもっています。看護師であることを生かして、得意分野を活かした何者かになっていける生き方を見つけられる社会にしていくことが目標です。
現役看護学生へのメッセージをお願いします
岩谷:私は、決してなんでもできる器用なタイプではなく、自分のことは凸凹な人間だと思っています。言葉で伝えることや行動力はあると思いますが、緻密な作業やデータの分析は苦手です。
でも今は、自分の得意なこと、好きなことを仕事にしています。ぜひ、人よりも上手くできるところ、得意なところ、人と違うところ、自分の特性を流さずにしっかり書き留めてみてください。他人のことを見つける前に、自分と向き合うといいと思います。
また、自分の得意・不得意を見つけられるようになることで、徐々に他人の得意なところ、不得意なところが見えるようになりますし、凸凹を許容できるようになると思います。
ー岩谷さん、ありがとうございました!
一日でできることではなく、他者との関わりのなかで気がついたり、日常のなかで気がつくこともあると思います。丁寧に拾い上げていきたいと思います!
コメント
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[…] 終末期ケア専門士という、資格をつくった日本終末期ケア協会の代表・岩谷真意さんのインタビューでも、このような言葉がありました。 […]