生き方を伝える「映像」で、前を向いて生きる後押しを。|訪問看護師・大塚俊輝さんにインタビュー

Alt="大塚俊輝 コミュニティナース"

訪問看護師として働きながら、カメラのレンズを通して、病気を抱えても人が前向きに生きられるような応援をする大塚俊輝さんにお話を伺いました。大塚さんのコミュニティナースとの出会いと、自分だからこそできる看護のあり方を見つけるまでを、コミカレ生(コミュニティナースに興味のある学生メンバー)の寺田絢咲ちゃんが引き出してくれました。ぜひご覧ください。

聞き手/寺田絢咲(やさっち)   編集/野村 奈々子

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今回の記事はこんな人におすすめ!

・訪問看護師に興味のある人
・クリエイティブな看護に関心のある人
・コミュニティナースという言葉にそそられる人
・自分の看護観を模索している人

大塚俊輝さん
大塚俊輝(おおつか・としき)さん
1991年10月31日のハロウィン生まれ。島根県浜田市出身。2015年に島根大学医学部看護学科を卒業し、広島大学病院へ入職。その後2020年4月に訪問看護ステーションコミケアに入職し、2021年7月より所長に就任。コミュニティナースプロジェクト実践講座は雲南第1期を受講。あだ名はとっしー、としぽん。
目次

看護職を目指すきっかけと、これまでのキャリアを教えてください

大塚俊輝さん(以下、大塚):姉が看護師だったこと、手に職をつけたかったことから、看護師を目指しました。「看護師としてこうなりたい!」というビジョンがなく、ずっと悩んでいました。

ところが、看護師3年目の終わりに転機が訪れます。大動脈解離で脳死状態となった30代の若年患者と関わることがありました。その方には奥さんがいて、妊娠中でした。僕はその患者との関わりを通して、「この人がいまここでこの病気にさえなっていなければ、もっと自分のため、家族のために時間が使えたのではないか?」と思ったことがきっかけで、予防の重大性を意識するようになりました。「病棟看護ではなく、地域医療に携わり予防活動をしよう」と情報収集していたところ、コミュニティナースと出会い、これをやりたい!と思いました。

なぜコミュニティナースだったのでしょうか。

大塚:予防に興味を持ち始めた当初は、”病気にならないこと”が重要だと考えていました。誰も病気にはなりたくないだろうと思っていたので、予防に焦点を当てて活動することは価値のあることだと信じていました。

しかし、活動していくなかで「病気によって得られるものもある」と気づき、ふと、「病気=不必要」という図式は成り立つのか疑問に思うようになりました。同時に、予防だけでなく、「たとえ病気になったとしても、前向きに生きるきっかけ」を支援することも同じくらい重要なのではないかと考えが変わっていきました。

自分が「コミュニティナース」の本を読んで、これだ!と思えたからこそ、誰かの生き方や考え方には、時に人の人生を変える力があると思いました。病気になっても前向きに生きる当事者の話を届けることで、同じような境遇で悩む人たちの救いになるのではないかと考えました。
誰かに、誰かの「生き方や考え方」を届けることで、“人生の健康”を応援する。その手段として、僕は「映像」を使った看護活動を通じ、生き方や考え方を伝えていこうと決めました。

映像を使った看護活動について教えてください

多系統萎縮症を患う、高橋はるみさんという女性の実体験と想いを映像化しました。多系統萎縮症は指定難病*です。様々な想いを抱えるなかで、「どんな姿になっても、最期まで誰かの役に立つことをしたい」という想いに共感し、実名で動画を作りました。

*…指定難病
難病とは、『発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの』とされています。このうち、「患者数がわが国で一定数(現在の基準18万人・人口の0.142%未満)に達しない」、「客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している」という要件を満たす疾患を「指定難病」といいます。
参考:厚生労働省「難病の患者に対する医療等に関する法律 第一条 」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nanbyou/dl/140618-01.pdf#page=2

実際に映像化してYouTubeで公開した結果、多系統萎縮症で家族を亡くした方が動画を観て、「私もこの方と関わりたい」と関わりを持つようになりました。また、動画をきっかけに同じ病気をもって療養されている東京在住の方と繋がり、オンラインでコミュニケーションをとることにも繋がりました。オンラインスナックだとか、オンライン花見とか。

Pick UP!⇨反応をまとめた動画がこちら!

Alt="大塚俊輝 コミュニティナース"

これをきっかけに自分の現状を捉え直すきっかけになったと仰っていました。それをはるみさんにフィードバックをしたとき、病気になっても人の役に立てたという実感が湧いたようでした。思考や行動を変えればいくらでも自分の状況を打破できること、そして映像で人をつなぎ、前向きな気持ちになれるよう後押しすることも一つの看護であると実感しました。

なぜ映像なのでしょうか

大塚:僕が病棟を辞めて地域に出ようと思ったとき、まず誰かの話を聞くところから始めようと思いました。すでに地域で活動している人や、病棟を離れて違う環境で働いている人に話を聞こうと思いましたが、思っていた以上に直接人と話す機会がないことに気がつきました。

僕は「本」という手段で矢田さんの考え方に出会い、他人の生き方を知ることの重要性を感じていましたが、なかには活字が苦手な人もいます。せっかくはじめたカメラとかけ合わせて、映像だったらより多くの人に届けられるのかもと思いました。

やさっち:映像だと、一見難しそうなことも、その人の人生が伝わってきます。すごく素敵な動画だと思いました。同じ病気の方が、動画を観て勇気をもらったという嬉しい反応もあると思いますが、他にはどのような反応がありましたか?

大塚:予想外に多くの方に観てもらえてびっくりしました。自分の周りの人にSNS等でシェアしてもらうだけで、800~900回くらいの再生回数でとどまっていました。ところが、3月頃から急に再生回数が伸び始め、ピーク時には2日間で1万回再生されたこともあります。
自分の売名のために動画を作ったわけではなく、はるみさんの想いを届けたいという思いで作った映像だったので、いろいろな人に届いたことが嬉しかったです。

映像の強みはなんだと思いますか

大塚:伝わる情報量が多いことだと思います。姿・形、音声で残せることですね。コミケアに入職した時から、自分の看護に映像を活用したいと思っていました。周りのスタッフからは「いいね!」で終わっていたのですが、たまたま自分の職場で歓迎会をしたときに、vlogとして歓迎会の様子をまとめてシェアしたところ、「動画に残るってめっちゃいいね!」と、動画の良さを分かってもらえました。一目で伝わるパワーをもった動画はやっぱりいいなと思いました。

映像の活動で特に大切にしていること、信念を教えてください

大塚:少なくとも自分が関わる人については、その人の中で抱えている後悔を小さくしたい。人が人生の最期に一番後悔することは、「なんであのときあれをしなかったんだろう」という、行動を起こさなかった後悔だと言われています。だからこそ、今この瞬間に自分がしたいと思ったことを全力でしてほしい。そのお手伝いができたらなと思っています。

はるみさんの場合、「この病気になって出会えた人もいるし、この病気になっても良い人生だったなと思う」という気持ちになるきっかけ作りができたのかなと思います。また、動画を通して、「この病気になってもいきいきと生活ができるんだ!」と、現状を前向きに捉えなおす患者さんもいらっしゃいました。このように、人生の意味づけをお手伝いする事例をもっと増やしたいと思います。

やさっち:病気によってマイナスなことに視点がいきがちですが、動画でプラスの方を撮ることを通して、視線をプラスに持っていくことはすごくいいなと思います。映像屋さんとして、どのような時にインスピレーションを感じるのでしょうか。

大塚:病棟では見れなかった一面を見れる時でしょうか。家族や友人と関わっている姿。外を散歩している姿。はるみさんだと、スナックに出ていく姿…。患者さんが仕事する姿とか、病院では見られないじゃないですか。病院と家とでは、患者さんの顔が全然違うと思うので、「違う一面」を残すことは重要だと思います。

Alt="多系統萎縮症 高橋はるみ"

やさっち:病棟だと「患者」という肩書がついてしまいますが、訪問看護ではその人自身の普段のあり方が見えますよね。その人らしさが表れる訪問看護とカメラには親和性がありますね!
今後チャレンジしたいことを教えてください

大塚:コミュニティナースの本を読んだとき、カフェ、ガソリンスタンド、移動販売の人がコミュニティナースであるように、より身近な場所に医療職がいる世界観を現実にしたいと思いました。今まで出会わなかった生活の延長線上に看護師がいることが、コミュニティナースの原点だと思います。

健康について悩んでいたら、たまたまそこのカフェの店員が看護師だった…という世界観が素敵だなと思っていて、訪問看護ステーション×カフェなど、ひそかにいろいろなことを考えています。自分の強みとしてやはり「動画・カメラ」なので、カメラを一つの軸にしながら、色々な機会を持っていきたいですね。今は、所長として目の前の仕事に全力に取り組む時期だと思っているので、今の仕事が落ち着いたときにはまた、自分のコミナス活動をしたいと思っています。

最後に、キャリアに悩む看護学生たちにメッセージをお願いします

Alt="大塚俊輝 コミケア"大塚:学生のうちからいろんなことを経験して、選択肢を増やしてほしいです。人は経験したことの中でしか想像ができないと思うからです。
人に後悔するなと言っておきながら、自分こそ後悔しているんですよ。学生の時、もっとあんな経験をしておけばよかったなと。コミュニティナースカンパニーのインターン生と関わることが多かったのですが、他の看護学生が経験できていないことをしていて羨ましいと思いましたし、この子達は本当にすごいなと思いました。10歳近く離れていて、可愛いところも、生意気なところもありますが、素直に尊敬できる子たちだなと思いました。

僕が学生の時は、ただのかっこつけマンだったんですよ。人から笑われることから逃げて、一番ださいパターン。人から何を言われようが、自分がやりたいと思っていることをひたむきに頑張る姿がかっこいいなと思います。周りの評価に流されて自分がやりたいことをできずにいるより、周りから何を言われようが自分がやりたいことを貫き通す。僕が10年前に戻れるなら、そんな学生になりたいです。

★インタビューの様子はこちらからご覧になれます
https://www.youtube.com/watch?v=UMPmHGeWKv0

▼コミュニティナースな方々のインタビューはこちら

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*このインタビューは、全国ぶっコミプロジェクトのクラウドファンディングのリターンである、【看たまノートであなたを取材】をお選びいただき、実現しました。本当に、応援ありがとうございます!

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